正確には160.5センチ。小柄なFLは大勝のゲームでもタックル、またタックルと体をぶつけ続けた。
12月27日に開幕した花園(第98回全国高校大会)。その1回戦で魚津工に45-14と勝った鹿児島実のFL、治野賢至(はるの・けんし)主将は、背番号6を背負って数え切れないくらい相手の膝下に突き刺さった。
BKの選手にしては珍しく両耳がつぶれている。
「いつも低くタックルするようにしています。相手の膝がぶつかったり、よく(耳と)擦れる。繰り返すうちにそうなりました」
3年生の夏までFBでプレーしていた。接点でジャッカルをする場面を何度か続けていたら、監督から「FLを」と言われて転向が決まった。
それ以来、自分に求められていることを果たすことに集中している。
1年時にはセブンズの全国高校大会(アシックスカップ)で大活躍し、セブンズユースアカデミーの合宿に2度呼ばれたことがある。切れのいいステップと走りが自慢だ。
そんな才能があればボールを持って走りたい思いにかられることもあるだろう。しかし、小さなキャプテンには一切そんな欲が見られない。ボールキャリーをするよりサポートランとブレイクダウンに頭を突っ込む。ディフェンス時には一の矢になる。ボールの近くに常にいる。
「自分がFLになったのは、BKにいい選手が出てきたこともそうですが、他のFWが走る量を減らし、そのぶん、タテに強く出られるようにするためです。だから僕が走り続けないといけない。いまは、そのことしか頭にありません」
きっぱりと言い切る。
魚津工戦を振り返り、「終盤、相手のいいプレーに慌てたところがあった」と話す。
「でも前半は、『相手より走って自分たちのペースを作ろう』と試合前に話していた通りのプレーができたと思います」
自身にも及第点を与えた。
「先頭に立ってハードワークする。その役目は果たしたつもりです」
たまに鋭く走るシーンもあった。ボールとともに動き続けた先にチャンスが訪れたらそうした。相手の膝下に刺さってはすぐに起き上がり、走って、また刺さる。
目立ったプレーはなくとも、プレーヤーズプレーヤーとして光った。
サッカー少年が楕円球と出会ったのは小学生の時だ。タグラグビーチーム「清水HANJIRO」でプレーしていた。6年生のころ担任の先生にラグビーを勧められ、鹿児島ジュニアラグビークラブに入った。中学まで同クラブに所属。鹿児島実に進学し、実力を蓄えた。
ただ、今回の花園に至るまでの道程は平坦な道ではなかった。高校1年の全国大会直前に膝を怪我。2年生時は肘を痛めた。
「悩んだ時期もありました。でも、その期間に多くの人たちに支えられ、いろんな言葉をもらいました。(富田昌浩)監督にも『考え方によっては自分にとってプラスにもなるぞ』と言われ、気づいたこともあります。自分が置かれた環境への感謝とか、ラグビーそのものへの思いも考えるようになって、成長できた面もあると思います」
そんな変化は、試合中の仲間への声かけや試合前後の振る舞いにも表われている。
故郷・鹿児島はNHK大河ドラマの影響で、「西郷どん」ブームに沸いている。花園に向けての壮行会でもその話題はよく出た。
「そういう空気があったので、チームの代表として『故郷の生んだ偉人たちに負けないように頑張ってきます』と挨拶すると、すごく盛り上がっていただけました」
薩摩隼人らしいキリッとした顔がほころんだ。
2回戦では長崎北陽台と戦う。6月の全九州大会では17-68と敗れた相手。防御が勝利への鍵となるのは明白だ。
キャプテンのタックルで、チームの意志を強く示したい。