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「一生、涙が出続ける」を乗り越えて。日野の村田毅、入替戦勝利の先に見る未来。

2018.12.26

日野レッドドルフィンズの主将として、トップリーグ残留に導いた村田毅(撮影:松本かおり)

 今季初昇格の日野が、自陣ハーフ線付近右のラインアウトを確保する。近場、近場でラックを連取。最後の力を振り絞る。12月23日、埼玉の熊谷ラグビー場。舞台は国内トップリーグの入替戦である。

 終了のホーンが鳴ると、日野のSOの染山茂範副将は球をタッチラインの外へ蹴り出す。21-11。一昨季以来の復帰を目指す近鉄に追い上げられながら、逃げ切った。

 大喜びする仲間の前に立ったのは、LOの村田毅。NECから移籍2年目で主将を張る30歳だ。まずは、シーズン終盤の献身ぶりを称える。

「最初に比べて全然、違うチームになったよ」

 話は、それだけでは終わらせない。なにせ2015年までは、厳しさで知られるエディー・ジョーンズ現イングランド代表ヘッドコーチのもとでハードワーク。ワールドカップ2015日本代表入りを目指していた。このクラブでも、限界を定めずチャレンジし続けたい。

 見事な勝利を挙げたこの舞台をあえて「こんなところ」と断じ、かように訓示するのだった。

「もう、こんなところにいたくないじゃん。そうするには、今年の俺らのスタンダードは全部、塗り替えなきゃいけない。もっと苦しいトレーニングをすれば、もっといい景色を皆で見られるから…」

 トラックのコマーシャルでおなじみの日野自動車を母体とするクラブは、2016年から強化のペースを速めた。サントリーから元日本代表FLの佐々木隆道が加わり、既存の社員選手に高みを目指す意識を涵養(かんよう)。昨季は村田も加わり、NTTドコモとの入替戦を制した。
 
 トップリーグ初挑戦年度の今季は、HOの木津武士ら日本代表経験者や元ニュージーランド代表SHのオーガスティン・プルらを補強。開幕節で宗像サニックスを33-3で制し、幸先の良いスタートを切る。

 ところがその後は、レギュラーシーズン、カップ戦を含め10連敗。船頭の村田は9月中旬、左まぶたの内側の涙小管を断裂させた。放っておけば「一生、涙が出続ける」からと、患部にメスを入れて人工の管をつけた。それは3月まで通ったままだ。

 オペを理由に村田が休んだのは、9月22日の第4節のみ。「リスクはありますが、戻ることにしました」。身長186センチ、体重103キロのハードワーカーは、怪我を外部に漏らさず10月7日の第5節で復帰。背に腹は代えられなかった。チームはSHのプルをCTBで起用するなど、荒波に耐えるのに必死だった。

 12月、順位決定トーナメントの下位グループに突入する。2日、熊谷で東芝に26-48と敗れ入替戦出場が決まった。続く8日は福岡・ミクニワールドスタジアムでコカ・コーラを40-36と制したが、15日は大阪・キンチョウスタジアムでの宗像サニックスとの再戦を34-37で落としていた。終盤の連続失点に課題を残した。

 もっともこの時期のセッションに、村田は手応えをつかんでもいた。試合後の振り返りによれば、「出られないメンバーたちがすごくいい練習をしてくれたおかげで、自分たちの形が見えてくる12月でした」。宗像サニックス戦後は2日間のオフで「ショックをかみしめ」ると、練習再開時から「皆、いい顔」だった。

 参加者に恐怖心を植え付ける入替戦では、近鉄の前に出る防御へ一歩も引かずぶつかること、力自慢が押すスクラムで圧力をかけること、なにより「がまんし続ける」ことを意識した。特に三つめの「がまん」は、過去2戦の反省点とイコールで結ばれる。その「がまん」を体現した1人が、他ならぬ村田だった。

 後半に入ると、スクラム、モールに馬力を使ったFWは疲弊。前半に18-3とリードを広げたものの、足をつった選手がそのまま芝に立っていた。

 ここで「まだうちは、崩れる時は本当にもろい」と村田。緊張感を保ち、ピンチの場面で決定的なジャッカルを連発する。

 後半28分、33分と互いにペナルティゴールを決め合うと、35分、近鉄が防御の薄いエリアを破ってトライ。21-11。点差を10に詰められた村田は、逆転負けした宗像サニックス戦を思い出す。自軍の選手たちと、思いを共有した。

「この点差、この時間帯。いままであったよね。相手は蹴らずに攻めてくる。次のディフェンスをしっかりと…」
 
 キックオフ。敵陣22メートルエリアまで駆け上がり、強烈なタックルを決めた。有言実行。ここから攻守逆転を決めたり、再ターンオーバーを喫して攻められたりとタフな時間を味わい、最後は安どした。

「ハイレベルなゲームにチームとして慣れているのか、慣れていないのかというと、まだ慣れていないです。経験豊富な選手はいるんですけど、そこのベクトルがひとつになっていないと、チームとしてはうまく回らない」

 試合後の記者会見。シーズンの振り返りを求められた村田は、正直に現状を明かした。トップリーグ経験者を多く擁するものの、チームとしてトップリーグで勝ち続けるにはもっと高いハードルを越えなければと言いたげだった。最短ルートで理想の状態となるには、具体的に何をすべきなのだろう。そう聞かれた村田は「…どうですかね」と間を置き、こう話した。

「まぁ、月並みなことを言うと、日頃の練習が試合に出てしまうと感じます。それを特に、この12月に言い続けてきました。きょうの試合のようなプレッシャー、怖さ、緊張を、練習でどれだけ与えられるのか。僕がそういうことを言っていくことで(緊張感を)作れたら練習の質は上がりますし、それによって自分たちに厳しさが出て、試合に表れるという部分はあると思います」

 援軍はいる。新しいチームの顔となった佐々木は、「やはり、明確なターゲットを持ってフィジカルレベルを上げる」と来季以降の青写真を描く。

 この日も選りすぐりのメンバーが足を引きずるなか、選手交代はわずか3度。佐々木は「いまはフィットネス、筋力とも選手によって差がありすぎるので。スターティングもノンメンバーも競い合えるぐらいのアスリートに成長しないと、戦えないですね」とし、トレーニングの計画立案についても可能な範囲で関わりたいという。

「リクエストはします。僕らはこうならないと勝てないというもの(基準)はわかっています。僕らが全てを決められるわけではないですが、コントロールできるところはコントロールする。簡単に(ポジションは)譲りませんけど、若い選手に乗り越えて行って欲しいです」

 入替戦に勝っても、決して喜んでいるわけではない。村田は「今年の努力をはるかに超えないと。今年のチャンピオンチームはもっともっと高みを目指すと思いますし、僕らはそういう舞台を目指すのなら、意識の部分を変えていかなきゃいけないと思います」。試合後は忘年会が予定されていたが、その向こう側も見据えていた。

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