ラグビーリパブリック

「勝たないと意味がない」と言い切る、慶大・古田京主将の悔いなき敗戦。

2018.12.26

キャプテンの古田京は後半24分、自らトライをあげた。(撮影/松本かおり)

 4点リードしていた。
 79分40秒で組まれたスクラム。SO古田京の頭の中で、勝利へのシナリオは明確だった。
「(スクラムからの展開は)完璧に準備していました。FWで時間を使おうと」
 しかし、レフリーの手があがる。
 慶大側がスクラムを崩した(コラプシング)とのジャッジだった。
「すぐに切り替えました。そういうことがあっても守る準備はしていましたから」
 早大が左タッチへPKを蹴り出す。ゴール前ラインアウトからの攻撃。最後は赤黒ジャージーの11番、WTB佐々木尚がインゴール右スミに飛び込んで勝負は決した。

 12月22日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた全国大学選手権準々決勝で、早大がラストシーンの逆転劇で慶大に勝った。20-19だった。
 昨年の同選手権では大東大に28-33、一昨年は天理大に24-29。慶大は、ともに準々決勝で惜敗した。特に昨シーズンは21点を先行されながらも一度は逆転。そこから再度ひっくり返されて敗れる悔しい内容だった。
 当時3年生だった古田は試合後、「いいラグビーはできているのに結果が出ない。そこを追求していかないといけない」と、ラストイヤーに懸ける気持ちを言葉にした。

 2018年度のシーズン。古田はキャプテンとなり、チームの先頭に立った。
 関東大学対抗戦では帝京大と競り、明大に勝つ。早慶戦では試合終盤、14-21のスコアのまま敵陣深くに攻め込み、最後の最後まで食らいついたが届かず。同対抗戦3位で大学選手権に臨むことになった。
 大会初戦の3回戦で京産大に43-25と勝ち、ふたたび早大と対峙する権利を得る。
 準備の段階でやり残したことはない。再戦は、充実した精神状態でキックオフを迎えた。

 立ち上がりの3分に先制は許したものの、WTB宮本瑛介のキックチャージ、古田のコンバージョンキックで逆転した慶大(7-5)。38分にトライ(SO岸岡智樹のコンバージョンも成功)を許して7-12でハーフタイムを迎えるも、スクラムで優勢に立ち、残り40分の見通しは悪くなかった。
 後半、慶大は先手をとった。55分、NO8山中侃がインゴールに入る。12-12と同点に追いついた。60分にPGで勝ち越されるも、64分には押し込んだスクラムから攻めて古田が自らトライ&コンバージョンを決めた(19-15)。
 ラスト10分は状況が二転三転する展開も、残り20秒でマイボールスクラム。早大・相良南海夫監督すら「さすがに万事休すと思った」というところからの逆転負けだった。

 試合後の古田はキャプテンらしく振る舞った。
「チームの中には地道に裏の仕事をやってくれる人がたくさんいました。その人たち(の苦労)が報われるのは結果(が残ったとき)だと思いますが、それを出せなかった。悔しいです」と話しながらも、4年間を振り返り、「強豪校からの勝ちは少なかったけど、本当に充実していた。楽しい時間でした」と表情を崩した。

 ラストゲームについて「力を出し切った」ときっぱり言った。
「79分40秒まで勝っていたんですから。早稲田との間に差があるとは思っていません。勝負事にはいろんな要素がある」
 勝敗の分岐点となったコラプシングのシーンを回想し、「スクラムについては分かりません」と話した。
「自分たちの準備、パフォーマンスには後悔がありません。早稲田(のパフォーマンス、残した結果)をリスペクトします。うちのスクラムは(試合の中の多くの場面で)押していた。それらははっきりしています。昨年までの負けにはしっかり理由があって改善すべき点がありましたが、今年はそういうものがない。(それでも良い結果が出ないのは)そういう運だったのかな、と」

 11月23日の早慶戦では差を広げられたところから逆襲するも、追いつけずに敗れた。
 その試合での反省を活かし、コミュニケーションをより密にして臨んだ今回。「きつい時間帯にどう話し、どう動くかを考えてきたし、それを出せた」けれど、勝利には届かなかった。古田は「この悔しさをどうすればいいのか」と言った。
「悔しさをどこにぶつければいいのか分かりません。ここで負けたから何かを伝えようとか、負けた悔しさを社会人になってから(活かそう)とか、そういう気にもなれない。(まだシーズンが続くと思っていたので)先のことはノープランです」
 古田と副将の辻雄康は試合後、仲間や後輩たちの前で同じことを言った。
「勝たないと意味がない、と。いい仲間はすでにいます。だから結果が(手に入れたいものの)すべて、と言いました」

 仲間とともに大学ラグビーの頂点へ向かう道は途切れた。
 しかし、医学部に学ぶキャプテンの学生生活は続く。
 人生は長い。