東海大ラグビー部2年の杉山祐太は、「音」に敏感だ。
「飛ぶなぁ、という時は、自分でもわかります。当たっている感触も、音も違います」
12月22日、大阪・キンチョウスタジアムで明大との大学選手権準々決勝に挑む。身長184センチ、体重88キロという恵まれたサイズを誇り、距離の出るキックでチームを前方へ押し出す。
「飛ぶなぁ、という時は…」の言葉は、球に足を当てて振り抜く際の「音」に関するもの。事実、この人がキックを蹴る時は、他の学生選手が出せないようなバシ、ドン、という類の「音」が鳴る。
「状況に応じていろんなキックを蹴っている。現状に満足せず、これからも自分の強みを出していきたいです」
世田谷ラグビースクール時代はサッカーにも親しんだ。ラグビー一筋になった東海大相模高時代は高校日本代表候補となるなど、その名を知らしめていた。
東海大へ内部進学後は、存在感を発揮するのにやや時間がかかった。昨季の公式戦出場はゼロ。背景には、心の問題があったという。本人の弁はこうだ。
「自分、もとからメンタルが強い方ではない。だからいろんな人から『もっと自信持てよー』って声をかけていただいて…」
ところがこの秋、木村季由監督が背中を押す。折しも、モールに手応えを得るなか自慢のFWを前に出す方法を模索中だった。ここで白羽の矢が立ったのが、「ここにきて、アグレッシブになってきた」という杉山のキックだった。
木村監督は11月25日、加盟する関東大学リーグ戦の最終戦で杉山に背番号11を渡した。本人は指揮官の「強気で行け」という期待に応え、1トライ4ゴールの活躍。陣地を獲得する際のロングキックでも光った。昨季王者の大東大を28−21で下し、2季ぶり8度目の優勝を決める。
たった1試合で、その右足の「音」を多くの関係者にアピールした。
「腹をくくるしかない。デビュー戦だからといって縮こまらず、自軍の強みを出す…。そう思って、覚悟を決めてたっす。(キックは)自分のなかでは感覚として飛んでいる気はしなかったんですけど、一応、エリア合戦は勝っていた。結果オーライなのかなと思います」
今季の東海大のBKには、多彩な個性が集う。SOには東福岡高2年時に高校日本一を経験したルーキーの丸山凜太朗が立ち、豪快に走るWTBの望月裕貴に飄々(ひょうひょう)としたFBの酒井亮治と、バックスリーにも新人が並ぶ。CTBには元東海大仰星高主将で3年の眞野泰地、来春からチーフス(ニュージーランド)入りのアタアタ・モエアキオラ主将という実力者が入り、杉山は初の日本一に向けて埋められた最後のピースのようだ。
耳で楽しむラグビーを、この人は提案する。
「試合中でも、音を気にしながら蹴っているつもりです。(理想の音と)違うなぁと思ったら、少し蹴り方を変えてみたり、ボールの落とし方を変えてみたりして。ただ蹴っているだけと思われるかもしれないですけど、そういう意識はしているので。試合中の修正力が鍵になる」
精神面を課題視されながら「あまり緊張はしないタイプ」とも話す青の「11」。繊細かつ豪快な右足の「音」で、凱歌を奏でる。
(文:向 風見也)