ラグビーリパブリック

ヤマハ戦3トライでサントリー3連覇へ王手。尾崎晟也、力の証明。

2018.12.14

準決勝でハットトリックを決めたサントリーの尾崎晟也(撮影:大泉謙也)

 注目されるべきは、トライを取った結果よりもトライまでの過程だろう。
 12月8日、東京・秩父宮ラグビー場。日本選手権を兼ねたトップリーグ順位決定戦の準決勝で、サントリーの新人、尾崎晟也が3トライを決める。いずれの場面でも、フリーでボールを受けやすい位置取りと相手の動きを見定めてのコースチェンジが光った。ただ速い、強いでは表現しきれぬ無形の力。それが尾崎の真骨頂だ。
 まず前半2分。ハーフ線付近右のラインアウトからのサインプレーでSOのマット・ギタウが左中間のスペースを破ると、その左を駆け上がるWTBの尾崎が防御の背後に抜け出しながらパスをもらう。
 右側から迫ってくる2人の防御と入れ違いになるようステップを踏み、カットイン。さらにカバーにきた選手も1人、2人と持ち前のフットワークでかわし、インゴールに飛び込んだ。ギタウのゴール成功で7−0。
 次は、13−22とビハインドを背負っていた後半7分。
 サントリーは敵陣ゴール前右のラインアウトからモールを作るなか、左側で深めのBKラインを形成する。モールの最後尾からSHの流大が球を持ち出すと、攻防線上に3人のBKの選手が駆け込んだ。
 ボールはその後ろのギタウへ渡り、ギタウは尾崎の待つ左後方へさばく。尾崎はいったんパスコースへまっすぐ走り込み、ボールを手にするや外へ膨らむような走路を取る。飛び出すヤマハの防御に触れられないまま、フィニッシュを決めた。ギタウはここでもゴールを決め20−22と点差を詰めた。
 そしてクライマックスの同30分。
 敵陣の深い位置で攻め込むサントリーにあって、まずはFLのクリス・アルコックが飛び出すタックラーをかわしてゴール前で直進する。防御の目線がその近辺に寄る。すると途中出場していたSHのマット・ルーカスが軽やかにさばき、ボールはCTBの梶村祐介、FLのツイ ヘンドリックを経て尾崎につながる。いったん左側へ踏み出すふりをして、右から迫る防御2人をかわす。さらに右側に並んだタックラーとぶつかりながら、ゴールラインの向こう側でグラウンディングした。25−22と勝ち越した。
 チームは延長戦の末、28−25で勝利。殊勲の背番号11は、「きょうはいい形でボールがもらえて、スペースがよく見えました」。簡潔に手応えを明かす。
 15日には秩父宮で、神戸製鋼との決勝戦に挑む。次の対面が自身より16センチ、19キロも大きなアンダーソン フレイザーであること、神戸製鋼がSOのダン・カーターを中心に変幻自在に攻めることを踏まえ、防御についてこう展望していた。
「(フレイザーは)高さ、強さがあって、ボールを持ったらどんどん(前に)来る。オフロード(タックルされながら味方に球を渡すプレー)もあると思うので、下にタックルへ行って、倒す時は倒す。体格差はあるんですけど、工夫していきたいと思います。個人ではなくチームでディフェンスすることが大事です。相手のアタックを見て、早めに内側の選手に(防御ラインの出方などを)伝えたいと思います」
 昨季は帝京大の正FB兼副将として、大学選手権9連覇を達成。位置取りの妙とランニングスキルとの合わせ技は当時から光っていて、サントリーでも今季開幕前からレギュラー入りを果たした。キック捕球後のカウンターアタックの際には大型選手が守るエリアへスピード勝負を仕掛けるなど、目配りの利いた動きはトップリーグでも目立った。
 
 当の本人の実感は、「シーズン最初はなかなかうまくいかないところもあったのですけど、最近は試合にも出させていただいて、だんだん…」。タッチライン際のWTBに定着し始めた頃は、持ち場を全うしようとの意識がやや強すぎた様子。もっとも怪我をした松島幸太朗の穴埋めで最後尾のFBに転じた際、「チャンスがあったらスペースに入っていくという感覚がだんだん戻ってきた」とのことだ。ボールタッチ数を増やすなか、サントリーの攻撃システムに沿って自分の強みを活かす術を体得した。
 見据えるのは、来年のワールドカップ日本大会だ。順位決定戦を直前に控えた11月下旬、こう話していた。
「与えられた役割、責任を全うして3連覇に貢献したいと思うのと、この3試合は2019年のワールドカップに向けて大事で、いいチャンスになる。自分自身のパフォーマンスにこだわっていきたいと思っています」
 尾崎は学生時代に日本代表デビューを果たしているものの、大会に向けたトレーニングスコッドには選ばれていない。WTB、FBには松島、山田章仁、福岡堅樹といった2015年のワールドカップ経験者に加え、前東海大主将の野口竜司らが名を連ねている。
 野口は現所属先のパナソニックでは主力チーム入りに至っていないが、キッキングゲームへの対応力が認められてかジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチらから重用されている。
 尾崎と野口は、同い年で関西出身同士。周囲はどうしても2人のライバル関係に注目するが、その手の仮説へ尾崎は慎ましく応じるのみ。矜持を示す作法は、心得ている。最近の自身のプレーの幅の広がりを、ボスにアピールするだけだ。
 その意味ではヤマハ戦での特筆すべきプレーはトライシーンと別のところにあった。
 前半28分頃、相手SOの清原祥のラインブレイクで一気に自陣中盤まで下げられた時だ。接点付近でヤマハSHの矢富勇毅が、サントリーの防御ラインの左奥へキック。ここで大外にいた尾崎は他選手よりやや後ろで待機していて、球の転がる自陣22メートルエリアへスムーズに戻る。捕球。相手のチェイスが目の前にいるなか、10メートル線付近まで球を蹴り返した。
 その直後も攻めるヤマハが蹴ったボールを受け取りカウンターアタック。その後はしばらく、サントリーのフェーズが続いた。尾崎は言う。
「自分自身、プレーの幅を広げるために練習しています。そこの成果がだんだん、出ているなと思います」
 ひとつの走り、ひとつの目配り、ひとつの声掛けで、己の力を証明するだけだ。
(文:向 風見也)
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