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日本代表復帰へ「準備はしています」。ヤマハ日野、痛恨スクラムへの見解は。

2018.12.14

サントリーとの準決勝でプレーするヤマハのHO日野剛志(撮影:大泉謙也)

 ヤマハはスクラムを押し続け、国内タイトル2連覇中のサントリーを苦しめた。12月8日、東京・秩父宮ラグビー場。トップリーグ順位決定戦兼日本選手権の準決勝でのことだ。
 攻防の起点となるスクラムは、FWが8対8で組み合う共同作業だ。この苦しい競り合いに、ヤマハはプライドをかけていた。2011年就任の長谷川慎コーチは、スクラム強化における手腕と理論が認められて2016年秋に日本代表へ入閣。残された戦士たちはいま、一昨季まで現役PRだった田村義和コーチのもと伝統を受け継いでいる。
 この日は後半34分、敵陣22メートルエリア左の相手ボールスクラムでターンオーバーを決める。途中出場した右PRの山村亮が塊の先頭に立つような形で、一枚岩となりサントリーのパックをへこませる。
「(最前列に)押すという気持ちは常にあって、最後は後ろ5人の押すという気持ちが出た。相手もがまんしているところを最後に(押し返した)。いままで積み重ねたディテール、気持ちが出た。8人で押せたスクラムです」
 中列の2名、後列の3名へ謝辞を述べるのは、日野剛志。同大から入社7年目の28歳で、最前列中央のHOを務める。2016年には長谷川が加わった日本代表に初選出され、国際舞台を経験した。翌年からの2シーズンは代表の兄弟格にあたるサンウルブズへ入り、スーパーラグビーでも力を発揮してきた。身長172センチ、体重100キロと一線級にあっては小柄だが、ぶつかり合いで引かない姿勢と持ち前のスピードを売りにしている。
 対するサントリーは、苦しんだ。口を開いたのは、最前列の左PRに入った堀越康介。帝京大の主将として大学選手権9連覇を達成したルーキーで、HOから左PRに本格転向して間もない23歳だ。
「ヤマハスクラムがキーでこだわってくると思っていましたけど、想像以上に重かったというのが体感としてありました。自分の思う姿勢で組めなかった時もありました」
 身長175センチ、体重100キロの身体にバイタリティと突進力を搭載し、今秋はHOとして日本代表に選ばれていた。招集された先では長谷川コーチから「首を強くするように」など今後の強化に関する多くのアドバイスを受けて成長も、この午後は新たな課題を得た。「ギャップ」が詰まった際の考察だ。
 もともとスクラムは互いに一定の距離を取って組み合うきまりだが、実際にはぶつかり合う前から間合いを詰めたり、相手のジャージィをつかみながら重圧をかけたりといった駆け引きが存在する。どのチームもルールに基づいて組んでいるが、センチ単位の争いのなかには互いの解釈の相違が発生しうる。この日の堀越は、結果的に組み合う前から「ギャップ」を詰められたように感じた。
 もし敵軍のあらゆる所作が合法と見なされた場合、自分たちは、もしくは自分はどう対処すべきか。ヤマハの苛烈なプレッシャーにやや戸惑ったという堀越は、前向きな言葉に検討事項を混ぜ込んだ。
「ギャップが詰められたなかでもいいヒットのできたスクラムもあったので、そこはいい経験だったと思います。ただ、ギャップが本当にないなかでどういうスクラムを組むかは課題として残ったと思います」
 ヤマハはサントリーをスクラムで追い込んだ。しかしある1本のスクラムで、大いに泣かされた。22−10とリードして迎えた前半39分、敵陣22メートル線付近中央で組んだ相手ボールのそれだ。
 前半いくつか組んだスクラムと同じく首尾よく相手に刺さるも、塊を故意に崩すコラプシングの反則を取られたのだ。間もなくサントリーはSOのマット・ギタウにペナルティゴールを決めさせ、点差は22−13と詰まった。
 この時、差し込まれたサントリーの最前列が腰を丸めたような形で自立していて、差し込んだヤマハの最前列は肘や膝を地面につけてしまっていたような。サントリーの堀越は、問題の1本に至るまでのレフリーとの対話について述懐する。
「僕の対面の選手がバインド(最初のつかみ合い)の段階でギャップを詰めて、ほぼ入っている状態で組んでいた。それをレフリーにアプローチしていたら、結局、(ヤマハの反則を)取ってくれた。レフリーとコミュニケーションを取れて、良かったかなと思います」
 対する日野は、悔しさをあらわにした。
「試合のビデオを観返してもらって相手の顔をみたらわかると思うのですけど、絶対に組み勝てていた」
 もっとも最後は、生来のジェントルマンシップで締める。怒りの矢印は自分たちへ向ける。
「組み勝っていたんですけど、うちが落ちているように見えたと言われたので、それはしょうがない。結果的にペナルティになってしまったのはもったいなかったかなと。落とさせないくらいのスクラムを組むべきでした」
 後半30分、サントリーの猛攻を食らって22−25と逆転を許す。6分後には日野たちが見事なスクラムターンオーバーを決めてフェイズを重ね25−25と追いつくが、最後は25−28と3点差で屈した。どちらかが点を取った時点で終わる延長戦の前半5分、ギタウに勝ち越されたのだ。
 だからこそ日野は、ハーフタイム直前の3失点をよけいに悔やむ。ただ、味方の戦いざまを誇ることならできた。
 この日のヤマハは、敵陣でのペナルティキック獲得時にラインアウトを選択。決まれば3点のペナルティゴールで点を刻むのではなく、ラインアウトから自慢のモールを組んでトライを狙った。
 結局、モールを得点に直結できたのは前半に限られ、サントリーの堅守を前に後半はノートライに終わった。それでも選択に悔いはないと、日野は言うのだ。
「うちはチャレンジャーなので点(トライ)を取っていかないと。あとは、後半は(リードされている)サントリーが攻めてくるのはわかっていたので、下手に3点を狙うよりもゴール前のモールでじわじわ攻めて、ボールキープをして…と思っていましたし、(モールからトライを)取れる自信もありました」
 試合後の談話は、自分たちの力攻めを跳ね返したサントリーへの賛辞にも及んだ。
「あとひとつのところで(トライが)取れなかった。取り切れなかったのが勝ち切れなかった要因かなと思います。後半、時間が経つほどに攻め手がなくなってきた印象があります。崩れないな、これがサントリーさんの粘り強さかなと、やりながら思っていました」
 自分たちらしく勝ちに行った日野。チームの未来とともに、自らの代表復帰への道筋も気にしていよう。来年のワールドカップ日本大会に向けた「ラグビーワールドカップトレーニングスコッド」では8月発表の「第二次」から名を連ねるも、堀越が参加した9月下旬の短期合宿と10月中旬以降のキャンプとツアーには帯同できなかった。
 10月の時点で「戻りたい気持ちもあって、準備はしています」とし、こう続けていた。
「ジェイミー(・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)からも『外れたけれど、まだ頑張ってくれ』というメールもいただいている。きっと、あの人のことなのでトップリーグはしっかり観ている。僕にできることはヤマハでいいパフォーマンスをしてアピールすること」
 ジョセフは現在、離日中。それでも日野は、クラブの勝利を狙うと同時に「アピール」を止めないはずだ。15日、秩父宮でトヨタ自動車との3位決定戦に挑む。
(文:向 風見也)
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