経験を積むヤマハSO清原祥。上を向いて歩き続ける。(撮影/大泉謙也)
サントリーの10番、マット・ギタウのPGがHポールを射抜いた。
ヤマハ発動機の10番、清原祥はしばらく立ち上がれなかった。
12月8日、東京・秩父宮で行われた日本選手権を兼ねたトップリーグ順位決定トーナメントの2回戦。3連覇を狙うサントリーが、大会史上初の延長サドンデスの末、28−25でヤマハ発動機を下した。
決勝点は延長5分、SOギタウのPG。試合後に両軍が握手を交わすなか、SO清原はひとりうずくまっていた。
「自信があっただだけにすごく悔しいです。去年や一昨年に比べて、悔しさは倍増しますね」
ヤマハ発動機は昨季準決勝、サントリーに7−49で敗れている。
しかし今年は前半を9点リード(22−13)で折り返した。敵陣に入ってフォワードが2トライを挙げ、スクラムも優勢。今年こそは――
仲間にうながされても、SO清原はなお立ち上がれなかった。25歳の司令塔は「チームのみんなは経験値が違いますから」と自嘲した。
「『次もある』という切り替えの部分ですよね。僕はそういう経験をあまりしてこなかった。トップリーガーとして、まだまだです。次に向けて切り替えなきゃいけないなと思います」
3年目を迎えた熊本県出身の25歳。出身高校は熊本・荒尾。サントリーのSH流大主将は同級生。ハーフ団を組み、共に花園を駆けた。
大学は関東大学リーグ戦2部の東洋大へ。ヤマハ発動機では、司令塔として14シーズン君臨した大田尾竜彦を追いかけた。
大田尾がプレイングコーチからスタッフ(BKコーチ)となった今季は、より存在感が増していた。開幕戦からスターター。12月の順位決定トーナメントでも1回戦から先発を任され、サントリー戦を迎えていた。
「今日は攻めて攻めてというプランでした。それはしっかりハマっていた部分もあり、通用していたと思います。ただ後半はスコアにつなげられませんでした」
前半はフォワードが敵陣で手応えを掴んだ。しかし後半の得点は、日本選手権初の延長戦をもたらした、FB五郎丸歩の同点PGのみとなった。
延長戦でもサントリーの壁はなかなか崩れず、自陣でのアタックが続いた。SO清原は敵陣へキックを放り込むことにした。足が攣るほど疲労は溜まっていた。
「一発目(のキック)は左足が攣っていて、短くなりました。それが結果オーライで競れていました」
バウンドしたボールをWTBシオネ・トゥイプロトゥが捕球。ハーフ付近から攻撃継続。さらにフェイズを19まで伸ばしたところで、もう一本キックを蹴り込んだ。これが「裏目に出てしまった」(SO清原)。
サントリーのFB松島幸太朗に、キックカウンターで切り返された。そしてヤマハ発動機のFLクワッガ・スミスのプレーが反則(ホールディング)となり、決勝PGでの幕切れを迎えるのだった。
試合後、SO清原は高校の同期と言葉を交わした。
「あいつ(SH流)も『負け試合』と言っていましたし、僕らもサントリーに勝つイメージしかなかった。でも、なんですかね、監督(徳井清明監督/熊本・荒尾高)も喜んでいると思います。同じ舞台に立って」
またサントリーに借りができてしまった。
まだ3年目。敗戦から立ち上がり、また頂きを目指して歩んでいく。
(文/多羅正崇)