身体能力の高い選手たちが揃う今回のキャンプ。秋田工でラグビーを始めたPR高橋璃玖も、
そのひとり。田舎の山の出身で、野球や陸上競技に取り組んできており、
スキーも(クロスカントリー)。ボールを持ってよく走り、よくタックルする。
なんというメンバーだ。スカウト関係者ならずとも見てみたい原石たちだ。
青森山田(青森)には、189?126?の巨大プロップがいた。浪速高(大阪)からは191?のロックがやってくる。今秋に山口県予選の1回戦で破れた宇部高にも好素材がいた。八戸西(青森)のバックス選手は、立ち幅跳びが280?で全体トップだ。
みな全国的には無名の高校生。世代別代表の経験者は一人もいない。
スキルフルな即戦力ではないかもしれない。しかし、そのサイズや能力には、大きな可能性が秘められている――。
そんな“大器晩成型”の有望選手22名を全国から集め、3日間のキャンプを行う「2018 年度第4回 『TIDキャンプ』」、が12月22日(土)からの3日間、京都・京田辺の同志社大学グラウンドで開催される。対象は17歳で、U17日本代表候補以上の経歴の持ち主、花園出場校の選手は対象外となっている。選抜要件はただ一つ、サイズやスピードといった“一芸”を有していることだ。
開催に尽力したのは、高体連ラグビー専門部副部長・天野寛之さん。大きな期待を寄せている。
「全国(大会)に出ていないような学校の選手ばかりです。全国には出ていなくても、一芸を持った子たちはいるということで、とても期待しています。代表のプログラムも教えられます。非常に良いことだと思っています」(天野氏)
そして今キャンプの発起人は、元日本代表でラグビー解説者としてもお馴染み、日本ラグビー協会リソースコーチの野澤武史氏だ。
「『身体の大きい選手だけを集めてやってみよう』と本格的に動き出したのが、今年の4月くらいです。関係者の中では「ビッグマン&ファストマン・キャンプ」と呼んで準備してきました。できるだけ多くの方々に、彼らを見てほしいと思っています」(野澤氏)
野澤氏は協会で、若手選手の強化・発掘が専門。今回、全国の指導者に協力を仰ぎながら、全国に散らばる原石をリスト化。構想2年で初開催に漕ぎ着けた。
「プロップでは体重115キロ以上、ロックは身長190センチ、バックスは立ち幅跳びが280センチ以上か、40メートル走が5.0秒に、それぞれ準ずる選手です」
構想の出発点は、セレクターとしての苦い記憶だ。
野澤氏は毎年5月からの2か月半、全国9ブロック(北海道、東北、関東、東海、北信越、近畿、中国、四国、九州)を回り、トライアウト合宿を通し、タレント発掘に従事してきた。
全国9ブロックで選抜された有望選手は、ブロック代表として夏の「コベルコカップ」へ参加。さらに選抜されると、その先のU17代表へ。そしてU19(高校日本代表)、U20代表へと続いていく。
そんな中で、セレクターとしての痛恨事を何度も経験したのだという。
「近年はコベルコカップに価値が出てきて、戦略が重視されるようになってきました」
だから各ブロック代表では、どうしても即戦力が必要になる。監督を務める先生方にもプレッシャーがかかる。煌めくのは、完成度の高い選手たちだ。
となると、一芸突出型は、どうしても見劣りしてしまう。
未完成ゆえに重宝はされず、秋を迎える。たとえば花園予選で早々に敗退する。やがてラグビーの道から逸れていく……。
「全国の先生方と話をしていて『あの選手どうなりました?』と聞いたら、『実は就職したんだよね』と。嘘でしょう……と。そういうことをこの数年間、垣間見てきました」
ラグビーでの将来像が描けないままフェードアウトした子。家庭の事情により就職せざるをえなかった子。
もしもそうした未完の大器たちが、大学ラグビー関係者と幸運な出会いを果たしていたら?
モチベーションが上がり、ラグビーに懸けてみようと大学ラグビーへ進んだかもしれない。特待生の枠をもらえていたかもしれない。セレクターとして悔しかった。
そんな無念を経験し、各方面の手助けがあってようやく実現するのが今キャンプだ。同期間に開催されるU19代表候補キャンプとの同時開催、抱き合わせで実現した。
参加者の7割は野澤氏が直接目にした選手、3割は信頼する先生方からの推薦だ。
「一芸に秀でた選手は、しばしば円の“右下”の部分のような成長曲線を描きます。高校の段階では低空で、ラグビー経験の長い選手や、180センチ、90キロという“高校ラガー最強体型”の子(笑)には敵いません。しかし大学、トップリーグと進めば、洗練されたコーチングによって、しばしば“先行者優位”を超える場合がある。でも、その低空の段階で評価されてしまって、ラグビーを辞めてしまう子たちがいるんです」
全国の指導者が選んだ未完の大器たちを、日本全国のセレクターなど多くの人に見てほしい。
「そういう選手たちを、まずは土俵に上げたい。それからは彼ら次第ですが、所属チームの先生と連携を取りながら評価・追跡していくこともやっていきたい。彼らにも『見ているよ』と伝えることで変わっていくと思います。それが日本ラグビーの発展につながれば」
サンウルブズ、日本代表でコーチを務めた、田邉淳もスタッフに加わる。
きっと荒削りで未完成だ。しかし原石だからこそワクワクする。京都・京田辺での3日間から、一体どんなストーリーが生まれるのだろう。
(文/多羅正崇)
【2018年度第4回「TIDキャンプ」参加メンバー】
(ポジション/氏名/所属/学年/身長・体重)
PR 鈴木大地 日立第一高校2年 (180/110)
PR 佐藤凛太朗 青森工業高校2年 (186/110)
PR 木村駿介 青森山田高校2年 (189/126)
PR 末永天 仙台高校2年 (180/111)
PR 上猶湧介 鹿児島工業高校2年 (182/117)
PR 高橋璃玖 秋田工業高校2年 (174/108)
PR 田中雄大 長崎南山高校2年 (185/118)
LO 楠本勝大 浪速高校2年 (191/86)
LO 清水瞭喜 遠軽高校2年 (187/88)
LO 比嘉一葉 駒澤大学高校2年 (189/98)
LO 矢野裕二郎 関東学院六浦高校2年 (191/81)
LO 神田康生 鹿児島工業高校2年 (190/78)
LO 笠掛優 常総学院高校2年 (191/98)
LO 松本光貴 明治大学付属中野八王子高校2年 (187/93)
CTB 日野坪英亮 静岡高校1年 (178/74)
WTB 川久保彪我 長崎北高校2年 (165/70)
WTB 柴田幸之介 作新学院高校2年 (182/65)
WTB 島田晃大 八戸西高校2年 (172/68)
WTB/FB 小林宗也 横須賀高校2年 (178/78)
FB 坂根涼真 寝屋川高校2年 (182/78)
FB 中山覚富 宇部高校2年 (171/70)
FB 山本晟人 鶴来高校2年 (181/74)