後半24分、自陣深くのスクラムからサイドアタック。大きく前へ出た。
(撮影/松本かおり)
ニヤリと笑う。
「先輩たちは生意気なやつだと思っているはずです」
早大の8番を背負っている丸尾崇真(まるお・たかまさ)は自分のことを「喧嘩っぱやい」と言う。
その強気が大一番で頼もしかった。
182センチ、98キロの2年生は明大重量FWに堂々と立ち向かい、勝利に貢献した。
12月2日、2万2256人のファンが詰めかけた秩父宮ラグビー場。31-27で赤黒ジャージーが笑った早明戦のラストシーンで、明大渾身のアタックを寸断したのがこの人だった。
4点を追い、怒濤の攻めを重ねた紫紺にCTB桑山淳生が突き刺さる。相手が倒れたところに丸尾が腰を低くして寄り、ボールに手をかけた。
ノット・リリース・ザ・ボール。SO岸岡智樹がキックを蹴り出して試合を終わらせた。
「最後はキツかったけど、粘り続けました」
相手ボールを奪いに入った瞬間、「取れる」と確信した。
この試合、丸尾はディフェンスで体を張り続け、アタックで何度も前に出た。
劣勢だったスクラム。マイボール時のNO8に任された役目は、フッキングされたボールを瞬時に手にしてパスアウトしたり、サイドへ走ること。
「いろんな状況に対応できるように準備を重ねてきました」
「前半、ボールタッチを増やすなど、もっとアグレッシブにいけばよかった」と振り返るも、精度の高いプレーはチームを助けた。
魂は熱く、頭はクールに。この人の持ち味だ。
前半30分、トライを決めたシーンを回想する。SO岸岡が相手キックを受けてカウンターアタック。明大デイフェンスの間をするすると抜けて前進し、パスダミー後に丸尾にラストパス。インゴール左スミに駆け込んだ。
「岸岡さんなら(抜けることが)あるな、と思っていました」
後半24分には、自陣ゴール前10メートル、右タッチラインから7メートルの位置でのマイボールスクラムから右サイドを走り、大きくゲインした。
「狭いスペースしかありませんでしたが、FLに新しい選手が入ったタイミングだったので(反応できないと思った)」
行く、行かないの判断は、任されている。
小学生(早実初等部)の時、川崎市ラグビースクールに入った。中学からは早実でプレーする(編集部注/加筆箇所あり)。高校2年になる直前までCTB。50メートルを6秒1で走る。
2年前の秋には早実(高校)の主将としてチームを率い、東京都第1地区予選決勝まで進出も、東京高校に12-33で敗れた。今年、その悔しさを後輩たちが晴らしてくれたことについて、「嬉しいし、刺激になる」と言うが、自分は自分のスタンスを貫く。
「いま、自分がプレーしているのは(早稲田)大学のラグビー部。そこで日本一になることに集中したい」
いよいよ始まる、負けたら終わりの戦いに向け、「いまに満足はしていません。すべての面のクオリティーをもっと高めたい」。BKに才能あふれる選手たちが並ぶも、「そこに頼る気はない。どんな試合でも、FWで勝つというプライドを持って戦っています」と覚悟を決める。
「アタックでもディフェンスでも、チームを勢いづける、アグレッシブなプレーを」
大舞台では、強気がいちばんの武器になる。
関東大学対抗戦優勝では足りない。荒ぶるを歌うときまで、心の底から喜べない。