加藤広人は、腐らなかった。
早大ラグビー部前主将で身長186センチ、体重97キロのファイターは、今季、国内最高峰トップリーグ2連覇中のサントリーに入団。梶村祐介、堀越康介、尾崎晟也といった同期入部の3選手が開幕節からレギュラーを勝ち取る一方、なかなか出番を得られない。
しかし、「(サントリーに)入団させてもらったということは求められているレベルが高いということ。その基準に達していないと自覚して成長していきたいです」。毅然とした態度を貫いていた。
「コミュニケーション、エナジー、フィジカル、精度。どこを取っても足りない。そのなかで、自分の強みはこれだというものを見つけ、伸ばしたいです」
9月29日、東京・サントリー府中グラウンド。日野との練習試合(〇84−0)に出場した。タックル後の起き上がりのスピードや接点上のボールへ絡む働きで光明を見出したが、本人は「それ(が得意と見られているの)は学生レベルでの話。トップレベルに入ると強みとは言えない」と慎重な構え。「ただ、弱みとまではいっていないので、それをトップリーグのスタンダードに上げて自信をつけたいです」と続けた。
続く10月20日のレギュラーシーズン第7節(対 日野/〇50−12)では後半22分からの10分間の一時的な入替、同36分からの途中出場で初めてトップリーグの公式戦を経験。11月におこなわれたカップ戦では、3戦中2試合で先発した。12月からの順位決定戦に向けても、代表経験者らとLOもしくはFLの定位置を争うつもりだ。
「最初の方は、自分自身のパフォーマンスが上がらないこと、試合に出られていないこと、他の同期3人は出ていることにいろんな感情が湧いて、悩むこともありました。でも、あの3人がトップレベルなのは最初からわかっていたことでした。いまは自分のプレーに集中して、目の前のひとつひとつのことを頑張っています。出られてないこと自体が『このままじゃやばい』という遠回しなメッセージだと思っている」
シーズンが中盤に差し掛かった頃、こんな心境を吐露していた。吹っ切れたのは、開幕節を終えた9月上旬だったという。現状打破への強い意志は、いくつかの葛藤を乗り越えた先にあった。
かねてから就任3季目の沢木敬介監督は、現在の新人は自身が20歳以下日本代表のヘッドコーチを務めていた2013、14年に「才能がある」と見込んだ選手たちなのだと強調する。
今季、指揮官から聞いた言葉を、加藤はしっかりと心に刻む。
「戦術を理解し、目の前のプレーにまっすぐ向き合い、絶対に逃げるな」
(文:向 風見也)