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【早慶戦レビュー】「ディフェンス勝負」の背後にキックと「全員オプション」

2018.11.26

慶大戦でキックを追う早大のSO岸岡智樹(撮影:松本かおり)

<関東大学対抗戦A>
早大 21−14 慶大
(2018年11月23日/東京・秩父宮ラグビー場)
 慶大は8点差を追う前半33分頃、敵陣中盤左へ展開する。折り返しのパスを利して早大の飛び出す防御網を少しこじ開け、その先で相手のオフサイドを誘う。
 SOの古田京主将は「敵陣でのアタックは自信を持って用意していた」と、次のプレーに敵陣ゴール前左でのラインアウトを選択。しかしその空中戦は失敗し、慶大FLの山本凱は「相手をずらして捕ろうとしたけど、(捕球位置に)張られた」。序盤は要所のラインアウトが向こうの分析の餌食となっていた。
 早大は、攻めのきっかけをキックで作る。主役はSOの岸岡智樹だ。
 37分、自陣10メートル線付近中央から左奥へ長距離砲を放つ。相手WTBの小原錫満を後退させつつ、自陣10メートル線エリア左へ大回り。対する小原のキックを捕球すると、今度は上空へ蹴り上げる。
 まもなく慶大SOの古田が蹴り返してきたなか、自陣22メートル線付近で待ち構えて今度は右奥へロングキック。前がかりになっていた慶大FBの宮本恭右を逆戻りさせ、そちらへ早大FBの河瀬諒介が「敵陣で相手を抑えたい。間合いを詰める」と駆け上がる。宮本のキックは左へ大きくそれ、早大は敵陣10メートル右のラインアウトを獲得できた。
 変幻自在の足技は、事前分析と現場での連係との合わせ技。前半25分に55メートルのドロップゴールで先制の岸岡は、そう述懐する。
「相手のキックを蹴る選手をレビューで特定。周りの選手が『右裏には××(選手名)』とコールを出してくれて、キックの苦手な選手の前にボールを落とせたと思います」
 早大はここから、慶大防御網を丹念にこじ開ける。
 右中間、左中間では、慶大の鋭い防御を前に中野将伍、桑山淳生の両CTBが我慢して自立。中央ではHOの宮里侑樹ら、FW陣のフットワークが活きた。
 11フェーズ目では敵陣22メートル線上右の接点からパスが左へ回り、早大のランナーが次々となだれ込む。シャープな動きで慶大の網を破り、ゴール前中央でペナルティゴールを獲得。11−0とした。
 岸岡は続ける。
「全員(が球をもらう)オプション(になる)という早大のアタックを体現できたと思います」
 早大は以後も攻守逆転からの速攻、左右への揺さぶりを披露。後半28分に21−7と点差を広げる。時折、反則やタックルミスなどでピンチを招いたが、ノーサイド直前は自陣ゴール前で7点リードを死守した。好タックル連発のNO8の丸尾崇真は静かに喜ぶ。
「いつも通りという感じです。自分は、一こ一このディフェンスで、『狙う』ということを意識している」
 慶大は、エースFBの丹治辰碩が故障明けで33分の出場。「自分の間合いでボールを持つ機会がなく、もどかしい」。全般的にはSHの江嵜真悟の周りに立つFW陣があまり前進できず、金沢篤ヘッドコーチは「SHからの攻撃に対する早大の防御が強かった」と悔やんだ。
 両陣営が「ディフェンス勝負」と臨んだ早慶戦では、その「ディフェンス」をうまく切り崩した側に白星が転がった。
(文:向 風見也)
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