ラグビーリパブリック

「すみませんでした」。アマナキ・レレィ・マフィ、復帰戦で好パフォーマンス。

2018.11.24
いきなりフルタイム出場、好パフォーマンスのアマナキ・レレィ・マフィ。
(撮影/榎本芳夫)
 選手入場。NTTコムが誇る背番号8のクリスチャンは、グラウンドに入るやひざまずいて祈るようなしぐさをした。
 日本代表22キャップのアマナキ・レレィ・マフィが、約4か月ぶりに公式戦へ復帰。11月24日、加入5年目のNTTコムのNO8として大阪・キンチョウスタジアムでのトップリーグ(TL)カップ戦・第3節にフル出場した。
 キックオフと同時に、自陣深い位置から強烈な突進を披露する。0-10とリードされていた前半中盤には、接点の球に絡んで対するサントリーの反則を誘った。
 25分、敵陣ゴール前左中間のスクラム最後尾から球を持って駆け上がる。サントリーの長友泰憲にタックルされながら、オフロードパスを放つ。ボールがふたつ繋がった先ではWTBの石井魁がフィニッシュ。勢い余って背番号8を持ち上げた長友は「危険なプレー」と判定され、一時退場処分を受けた。
 背番号8がさらに光ったのは、7-16のスコアで迎えた33分頃。敵陣中盤右タッチライン際のスペースでパスをもらうと、タックラーを弾きながら敵陣ゴール前まで駆け上がる。オフロードパスで好機を繋げた先で得点は決まらなかったものの、続く35分、チームは敵陣ゴール前右スクラムから連続攻撃を仕掛ける。SHの鶴田諒がインゴールを割った。
「80分、いけるか」
「頑張ります」
 ハーフタイムには、ロブ・ペニー ヘッドコーチとかようなやり取りをかわした背番号8は、ラインアウトのスティールで魅了したLOのロス アイザックとともに、相手を掴み上げるチョークタックルも連発した。
 攻めては、接点上の相手防御を引きはがす動きでも激しさを示した。対するFLで、狩人として評判のクリス・アルコックは、ある時から相手の背番号8が入った接点には手を出さなくなった。
 アルコックは「(ボールを狙うかどうかは)そこに誰が入っているかというより、状況を見て判断します」としながら、「それまでに1、2度、彼にクリーンアウトされました」と苦笑した。
 背番号8は後半30分には26-33と7点差に迫るトライをマークした。体力的に苦しくなる試合終盤にも、味方がキックを蹴った先で強烈なタックルを打ち込んだ。タフだった。
 そのままのスコアで試合を終えると、スタンドからの「マフィ!!」という声に応じる。
 着替えを済ませた本人は、「嬉しいですね。喜んでます。皆、心配してくれて。すみませんでした」と話した。
 独特な表現で、自らの皮膚感覚を明かす。
「…すごい、疲れました。いままでこのスポーツやったことない、みたいな感じです。でも、最初の10分を超えると疲れが取れ、すごい、楽しめました」
 12月からはTLの順位決定戦に挑む。「もうちょっと、もう1つ、レベルアップをしたい」と貪欲だった。
「ただ、今日は初めてのゲームだから、これでいい(及第点)かなと思います。80分できて、すごい、頑張った。最初、40分(の出場)だと思ったんですけど、監督から『80分いけるか』って。『とりあえず頑張ります』って」
 かつて関西大学Bリーグの花園大にいた28歳の「フィジカルモンスター」が世間を賑わせたのは、7月中旬。オーストラリアのレベルズに加わりスーパーラグビーのニュージーランド遠征をおこなうなか、当時の同僚だったロペティ・ティマニに暴行したと見られて逮捕される。保釈されて帰国後も謹慎し、司法判断が出るまで活動を自粛する予定だった。
 今回のカムバックの背景には、刑事手続きの長期化が見込まれること、本人が深く反省しているとチームに判断されたこと、かねてから早期の公式戦復帰が求められていたことがある。
 マフィが日本に戻っていた8月下旬にはクラブの練習施設の利用が、10月下旬にはチーム練習への合流がそれぞれ許されてきた。NTTコムの採用担当としてマフィを発掘した内山浩文・同部現ゼネラルマネージャーは、「試合に出ていないメンバーに『もっとこうしたらいいのでは』と話すなど、日常でリーダーシップを発揮していた」「会社としても、試合のプレッシャー下でメンタルマネジメントする機会を与えたかった」と説明する。
 判決への影響を鑑みてのことか、試合後の取材機会では事件に関する質問は制限された。一方、パフォーマンスへの充実ぶりにはペニーHCが「彼は80分、プレーしたわけですが、きょうもワールドクラスの選手だと証明してくれました。(事前の)練習試合なしでこれだけのパフォーマンス。素晴らしいです」と太鼓判を押す。当の本人も「ちょっと体重も増えました。…食べすぎかもしれない」とおどけながら、体調面での充実ぶりをうかがわせた。
 マフィと親交の深いFLの金正奎主将は、慎重かつ誠実に言葉を選ぶ。
「見てもらったらわかる通り、素晴らしい選手です。自分たちが評価するより周りの方がどう見るかだと思うのですが、自分たちにとってはプレーのなかでいい影響がありました。トライを導くチャンスもクリエイトしてくれていたので、ワールドクラスの選手だと改めて思いました」
 対するサントリーの沢木敬介監督は、「やっぱり、1人でチームを変えられるくらいのパフォーマンスを持っている」。ファンにおなじみのストレートな言い回しだった。
 2015年のワールドカップイングランド大会では、コーチングコーディネーターとしてマフィを指導している。「個人的な意見ですけど」としながら「ゲームに出て欲しいな、というところもあります」とも続けた。
 期待されるのは代表復帰だ。英国遠征中の日本代表の試合をチェックしたマフィは、「皆、素晴らしいですよ。いい戦いだったと思います。こういういいプレーをして(いたら)、世界のどこでもイケると思います」と視線を向ける。
 去り際には「…あと、皆に心配をおかけして、本当にすみません」と頭を下げた。
(文/向風見也)
Exit mobile version