ラグビーリパブリック

京産大に元日本代表の伊藤鐘史コーチ。クラブのDNAは弟・伊藤鐘平にも。

2018.11.22

関西学院大に快勝した京都産業大のLO伊藤鐘平(撮影:江見洋子)

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京産大の伊藤鐘史FWコーチ(撮影:江見洋子)
 伊藤鐘史が痩せていた。
 2015年には日本代表のLOとしてワールドカップ・イングランド大会に出場した元ラグビーマン。引退前の記録上は「191センチ、100キロ」という筋骨隆々の体躯だった。しかし、引退して母校である京産大のコーチを務めるいま、随分とスリムになった。会う人、会う人に、体調を心配されてしまうのだと笑う。
「もともと、無理やり筋肉をつけていたので(引退したら)一気に痩せてしまって」
 11月18日、自身の故郷でもある兵庫の神戸総合運動公園ユニバー記念競技場にいた。関西大学Aリーグの6戦目で関西学院大を52−0で制し、「学生スポーツはすごくメンタルに左右される」と頷いた。
 開幕4連勝中は試合内容に不完全燃焼の感を抱いていたが、10日に奈良・天理親里競技場で立命館大に19−24と敗れてからは部員の変化に触れられた。恩師の大西健監督も「立命さんとのゲームから自分たちの精神的な未熟さを感じて、それがきょう形に出た。負けて反省するのは嫌なのですが、今回の負けの反省はよかった」と話すなか、新コーチの伊藤はこう振り返る。
「連勝が続いていてどこかで油断のようなものがあった。それで力を出し切れずに立命大に負けて、もう一回、普段の練習の取り組みなどを意識しました。今週は半ばくらいから、すごくいい練習ができた。それが、そのまま(試合に)現れました。きょうはコーチが何も言わなくても、選手の間からいい声が出ていましたよ」
 チームでは空中戦のラインアウトとキックオフを教える。
 特にタッチライン際でボールを取り合うラインアウトは、伊藤が現役時代から得意な領域だった。2012年に初選出された日本代表でも、元イングランド代表主将で2014年に正式就任したスティーブ・ボーズウィックFWコーチ(現イングランド代表FWコーチ)とともに作戦立案に携わる。ワールドカップではプールステージ4戦での自軍ボール獲得率を9割超とした。対戦国に多くいた2メートル以上の選手がいないなか、基本技術、動作の速さ、分析力で球を死守した。
 指導にあたる京産大も、レギュラーに190センチ以上の選手がいない。相手との身長差を他の方法で補わねばならないのは、ジャパン時代と同じだ。ここで掲げる方針は、「スピードとテンポが必要」。所定の位置につく「スピード」や相手の隊列を見て捕球しやすそうな箇所を見つける「スピード」、さらに相手に妨害されにくいジャンプの「テンポ」を意識づける。
 チームには弟がいる。レギュラーを張る3年生LOの伊藤鐘平は、リコーや神戸製鋼で活躍した伊藤コーチの16歳年下の弟。高校時代に親元を離れて北海道の札幌山の手高に通い、伊藤コーチの就任前に兄の出身大学である京産大へ入学していた。
 しかし兄いわく、「最初に言ったのは、(部内では)兄、弟というのはなし。選手とコーチ(の関係)」。弟も兄について聞かれると、純粋にコーチとして接しているのだとした。
「僕自身、ラインアウトディフェンスのリーダーをしているのですが、(伊藤コーチが)分析をしてくれるおかげで相手のキープレーヤーなどがわかりやすくなって、去年よりもスティールが多くなっていると思います。アタックでも成功率が高い」
 関西学院大戦の勝利を受け、「京産大らしいひたむきなディフェンスができた。これを続けていきたい」。このクラブのDNAが身体に刻まれているようだ。
「きょう負けてしまったら(上位3校が進める)大学選手権に行けなくなるかもしれないという危機感が出て、チーム全体にやっとエンジンがついた。練習でも身体を当てるメニューが入って、そこでも引かずにできた。(シーズン序盤は)心のどこかで勝てるやろうという気持ちがあったと思うんです。ただやっぱり、京産大はひたむきにやらないと勝てない。大西先生も言っていたのですけど、力、サイズでは相手に劣っている部分が多いので、相手より走る、身体を張るといったことをしないと並みのチームになってしまう」
 兄が体形の変化を指摘されるのなら、弟が言われるのは顔つきの変化だ。試合中の眉間、彫りの深さ、談笑する際にはじける笑顔が、日本代表時代の兄に近づいているような。身長188センチ、体重92キロの現役ファイターは言う。
「…昔はあんまり似てなかったんですけど」
 今度の白星を受け、京産大は戦績を5勝1敗とした。24日には、京都・西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場でここまで6戦全勝の天理大と優勝を争う。
(文:向 風見也)
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