今季、明大ラグビー部のスクラムに磨きがかかっている。卒業生で元リコーの滝澤佳之コーチが就任2年目を迎え、8人の組み手が一体となる習慣が根付いている。最後尾の端側に入るFLの朝長駿は「一番きついのはPR」と、最前列の選手をリスペクト。そのうえで、己の職責を全うする。
「PRに声をかけたりして、メンタルの部分で盛り上げたいと思っています。もちろん、(自身も)押すことは押すんですけど」
10月7日、栃木・足利陸上競技場。加盟する関東大学対抗戦Aの筑波大戦に挑んだ。
前半36分、敵陣ゴール前左でスクラムを得ると、紫と白の塊が水色の塊を崩す。向こうの反則によりペナルティキックを得ると、そのままスクラムを選択。また押し込んで、レフリーの笛を誘う。この繰り返しだ。明大の選手たちは背中と地面を平行に保とうとしながらも、最後は筑波大の選手たちの上体を突き上げて進んだ。圧倒した。
最後はスクラムを起点にFWの縦突進を繰り出し、NO8の坂和樹がフィニッシュ。直後のゴール成功でスコアを19−7とした。最前列の左PRに入る安昌豪が「相手(最前列の頭の方向)が内側に組んでくるスクラムだった。僕たちはまとまってヒットから出ていこうとコミュニケーションを取った」と言えば、同じく右PRの祝原涼介はこう笑った。
「スクラムで流れを作れた。マイボールスクラムで相手のペナルティを取ることを、チームの選択肢としていました。きょうのテーマは8人で押すこと」
滝澤コーチの熱心な指導で、各選手は自軍の組み方を共有。前後左右の密着度合いにこだわる。先頭中央のHOに入る武井日向は、「8人がまとまることを意識しました。相手を崩して押し切れたのはよかった」と話す。
「いまは滝澤さんの目指すスクラムを僕らで体現できていると思う。ここからも成長できるようにしていきたい」
この日はトライシーン以外でも、両軍の力関係は大きく変わらず。試合中には内なる弛緩が生じたようだが、祝原はそれを見逃さなかった点こそ収穫だとした。おかげで舵を取る最前列のメンバーが入れ替わってからも、好プッシュを重ねられた。
「押せるようになってからは少しバラバラになった時もあったので、そこでは『もう一回、8人でまとまろう』と締めました。それで後半にメンバーが変わってからも、しっかり組めたと思います」
後半ロスタイム。すでに試合の大勢は決まっていたが、明大はギアを緩めない。敵陣中盤やや右寄りの位置でスクラムを押し、相手の反則を誘う。そのままボールを外に蹴り出すだけで白星を得られるなか、ベンチに下がっていた面々は一様に「スクラム! スクラム!」と連呼する。
祝原いわく、「相手をリスペクトして、逃げない選択をする」。その思いは、この時グラウンドに立っていたリザーブ組も共有していた。相手HOの一時退場処分により、スクラムはノーコンテスト(押し合わない形)とするよう命じられていた。途中から出たHOの松岡賢太は、置かれた状況で最善を尽くそうと心に誓った。
「スクラムになった場合に用意していたサインプレーを…」
スクラムの左脇にランナーが突っ込み、その右脇に松岡が回り込む。SHの飯沼蓮から受けたボールを右後方に回し、WTBの山村知也のトライを演出した。
松岡は、20歳以下日本代表でもある武井と同期入部の3年生。卒業まで続く実力者との定位置争いでも、一歩も引く気はない。
「同期の武井が出ていてずっと悔しい思いをしていて。2番手でいいなんて思ってなくて、常に武井を追い越すつもりでいる。後半から出たら自分のプレーをアピールして、最後にはスタメンの座を奪いたいです。HOとしてセットプレーを安定させるのはもちろんですが、自分はボールを持った時のプレーが持ち味。アタックの方でも魅せていきたいです」
ノーサイド。66−21。筑波大で途中出場したHOの大西訓平主将は、こう反省した。
「もともと低くスクラムを組もうと念頭に置いていましたが、相手の重さにやられた。ヒット後のチェイスでもっと前に行ければ押されなかった部分もあったと思うのですが…」
明大は昨季、19年ぶりに大学選手権決勝へ進んでいた。22シーズンぶり13回目の日本一を目指す今年度、田中澄憲新監督は「スクラムが強みになっている。もっと強みにしていきたい」とさらに高みを目指す。シーズン中盤戦以降は大学選手権V9の帝京大、関東大学リーグ戦1部の大東大とのバトルが注目されそう。特に大東大はPRの古畑翔を軸に強力なスクラムを組む。
もっとも、先ばかりを見すぎないのが今季の明大だ。20日、東京・明大八幡山グラウンドで成蹊大との対抗戦第4試合が組まれている。いつもスクラム練習がおこなわれるホームの地で、重戦車がキャタピラーを回す。
(文:向 風見也)