ラグビーリパブリック

ソシ、第2の故郷・山梨を駆ける。豊田自動織機NO8トコキオの里帰り。

2018.10.09
後半36分、豪快に防御を突破してトライを挙げた。(撮影/松本かおり)
 青春時代を過ごした地の空気を吸い、のびのびとプレーした。恩人が見守る前で豪快に駆けた。
「気持ち良かった」
 闘いを終えたソシセニ・トコキオは、眉の横に絆創膏を貼ったまま流暢な日本語を話し、ニーッと笑った。
 10月7日、山梨・中銀スタジアムでおこなわれたサントリー戦で豊田自動織機は24-35で敗れた。
 しかし、スクラムなど上回る部分もあり、後半は勢いで上回る時間帯も。勝利を手にすることはできなかったけれど手応えはつかんだ。
 そして、その試合でNO8を務めたトコキオが元気だった。
 山梨学院大の卒業生。「(甲府は)見ての通り田舎でしょう。でも、大学時代は楽しかった」と懐かしそうだった。「いつもより力が入りました」と言った。
 今季は開幕から5試合連続で先発出場を果たしている。昨季は試合出場ゼロだから、充実感がまったく違う。
「昨シーズンは外国人枠の問題で、出場登録枠から外れていました。だから今シーズンは本当に嬉しい」
 ディフェンス面を改善して評価も高まった。チーム内での自分の役割を理解してチャンスを得た。
 信頼されている。
「任されているボールキャリーの部分で貢献することを考えています」
 サントリー戦でも何度も前に出た。後半36分にはトライも奪った。
 試合後のスタジアム前。シャワーを浴びたトコキオに近づいて、「ソシ(トコキオの愛称)、血が出てるわよ」と絆創膏のあたりを心配そうに見る方がいた。
 望月利子さんは、ソシにとって日本の母のような人だ。山梨学院大グラウンドの前に住んでいる。
 この日は、夫・大和さんとともに応援に訪れていた。
 大和さんは、かえでラグビースクール代表を務めている。同スクールは山梨学院大で活動し、大学生たちも手伝ってくれるから、歴代の留学生たちとも親交が深い。
 多くの若者が異国の地にやってきて、おふたりのお世話になってきた。最初の頃は誰もがホームシックになる。そんなとき、夫婦で食事に誘い、癒す。何年も、何人にも、そうやってきた。
「みんないい子たちばかり。その中でも、ソシは特別にいい子。日本語も凄く上手。優しいし、マナーもいい。キャプテンをやったほどだからね」
 おふたりは声を揃えて、『我が子』への愛情を惜しみなく口にした。
 ソシが、山梨で過ごした日々を思い出す。
「(望月さんご夫妻には)よくご飯も食べさせてもらいました。チームメートとも4年間楽しんだ。ラウンドワンに行ってボウリングをしたり、ビリヤードもやった。本当に日本に来てよかった」
 フィジーのカンダブ島、ナトゥムアの出身。ラグビーの才能を見込まれ、クイーンビクトリアスクール(フィジー)からNZのケルストンボーイズ高(オークランド)へ留学した。その後、山梨学院大へ進む。
 現在コカ・コーラで主将を務め、日本代表、サンウルブズで活躍するティモシー ラファエレは大学の2年先輩にあたる。
「ティムのように日本代表にもなれたらいいのにね」と望月夫妻が言えば、ソシ本人も「そうなりたい。日本の国籍も取りたい。そのためにも(豊田自動織機で)もっと頑張る」と前を向く。
 愛知に住むフィジアンが、山梨を第2の故郷と呼び、桜のジャージーを目指す。
 いまはもう、ヤシの木のエンブレムより、そちらの方が似合う。
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