今イベントの準備に飛び回った金新日さん。ポジションはCTB。(撮影/松本かおり)
高麗クラブ×千里馬クラブ。(撮影/松本かおり)
大阪朝高×東海大相模。(撮影/松本かおり)
夜の焼肉フェスティバルでは田中美里さんのミニライブ。(撮影/松本かおり)
ここにまた好漢がいた。
いつのまにかラグビーに魅せられ、仲間との絆に感謝する人生を歩んでいる。
金新日(キム・シニル)さんは、神奈川で活動する「凱旋(けそん)クラブ」の主将を務めている41歳。「タンギョル」という言葉が好きだ。団結を意味する。
8月25日、「第9回在日KOREAN RUGBYフェスティバル」の初日が保土ヶ谷公園ラグビー場(横浜)で開催された(26日まで)。毎年持ち回りで、全国各地にて開催されるこのイベント。神奈川朝鮮中高級学校にはラグビー部がないこともあり、当地での開催は今回が初めてだ。
凱旋クラブが中心となって準備を進め、金さんが実行委員長を務めた。
金さんは神奈川中高級学校に学んでいたときはサッカー部に所属していた。
ラグビーを始めたのは高校を卒業してから。
大学に通いながら、凱旋クラブで楕円球を追い始めた。
ラグビー部はないのに、神奈川中高級学校の卒業生がプレーしている同クラブ。現在は東京朝高ラグビー部のOBや日本人の仲間、米軍のラグビー愛好家たちが所属している。
金さんは、そんなクラブでラグビーの魅力を知り、多くの人たちとの縁を作った。先輩格にあたる高麗クラブ(東京闘球団高麗)に所属したこともある。強豪クラブの文化を学び、それを自分たちのクラブに持ち帰った。
今回KOREAN RUGBYフェスティバルの開催地に選ばれたのは、凱旋クラブの最近の活発な活動が認められたからだ。各地の先輩たちに託された。
しかし、簡単ではなかった。
全国から同胞のラグビーマンたちを迎えるだけでなく、多くの日本チームを招く。今回は横浜ラグビースクールや東海大相模高、慶大に加え、夏合宿で菅平を訪れていた高麗大も横浜に足を運んだ。
各チームとの交渉、費用の工面など、やるべきことは山のようにあった。
金さんが振り返る。
「私たちには高校のラグビー部がなかったので、ラグビー関係者との直接的なつながりを持っていませんでした」
金さんが笑う。
「でも、多くの人たちが手伝ってくれました。なんの見返りも求めず」
同胞の人たちはもちろん、地域のラグビー仲間たちが手を差しのべ、一緒に動いてくれた。フェスティバルへの参加を快諾してくれた。
「そこには何の垣根も壁もありませんでした」
ラグビーっていいな。あらためて思った。
金さんは、自分が愛するスポーツを広く知ってもらいたいと思い、毎年イベントを実施している。4年前から開催している沢渡ラグビーフェスがそれだ。
ラグビー部のない神奈川中高級学校に強豪高校ラグビー部を招き、試合をおこなう。初年度は東京朝高と目黒学院を招いた。
「同年代がラグビーをやっている姿を見て、刺激を受けてほしいな、と。真剣に戦うそのスピリットから何かを感じとってくれたら」
ラグビーだけでは周囲から応援されない。そう考え、そのラグビーイベントで得た収益を母校に寄付している。
「朝鮮学校は、いま、苦しい状況にあります。だから、少しでもサポートできればと思っています」
ラグビーを発信源に、感謝の気持ちを示す。そんなアイデアと柔軟性があるから、応援者も増えた。
それらの経験も、今回のビッグイベント開催の準備に生きた。
8月25日、保土ヶ谷ラグビー場には一日中、楕円球を追うラグビーマンの姿があった。同胞クラブ同士の試合。東京、愛知、大阪の朝鮮中高級チームとラグビースクール、東海大相模との交流。夜は神奈川中高級学校のグラウンドでコリラグ沢渡焼肉フェスティバルも開催され、参加者たちが盃を酌み交わした。
金さんは実行委員長だけにあちこちに目を配り続けながら、ずーっと笑顔だった。
あらためて、ラグビーと仲間が好きだ。
タンギョルの一日だった。