ラグビーリパブリック

北陸発、早大の柴田徹、バランス感覚と仕事量で主将と定位置争う。

2018.08.25

高校進学時に富山から神奈川へ。桐蔭学園でプレーした(撮影:福島宏治)

 故郷の富山は魚介類の身がぷりぷりしていてうまい。だから15歳で関東に出ると、飲食店やスーパーで売られる「海老天」に驚かされる。
 
 小さい頃から知っているのと比べ、あまりに小さいのだ。
 それでも柴田徹は、親元を離れた決断を悔いてはいまい。創部100周年を迎える早大ラグビー部で、主将の佐藤真吾たちとFLの定位置を争う。
 
 長野・菅平高原での合宿中だった8月19日、大学選手権9連覇中の帝京大に28―14で勝った。きっと王者はここから底上げを図るだろうし、勝った早大も24日には東海大に21―28で負けている。未来が確約されているわけでは決してないが、ファンは10季ぶり16度目の大学日本一を期待する。
 
 夏の練習試合で先発し続けた柴田は、置かれた立場を前向きに捉える。
 
「いままで培ったいい面を活かしたまま、また新しいものを作っていこう。それだけです」
 吉島ラグビースクールで楕円球と出会った。魚津市の東部中を卒業後は、強豪県に挑みたかった。近所の実力者がこぞって京都成章高を目指すなか、柴田が受けたのは神奈川の桐蔭学園高の推薦入試だった。地元の2つ上の先輩もいたこと、桐蔭学園高が進学校と見られていたことが決め手だった。寮に入り、3年時は全国準優勝を経験した。
 自己推薦で早大に入ったのは、高校の先輩でもある山下大悟前監督に勧められたからだ。門を叩いた頃はちょうどチームの転換期。グラウンド内外で創部100周年時の優勝のためのおぜん立てがなされ、緊張感がみなぎった。
 
 柴田の入学時に就任した山下前監督は結局、前年度限りでチームを去る。相良南海夫新監督の緊急登板で今季をスタートさせたが、北陸育ちの3年生は絶妙なバランス感覚を崩さずにいる。
「(入学時は)それまでの早大を全く知らなかったので、これが当たり前なのだと感じて戸惑うことなく順応できたと思います。(今季からの)変化はマイナスに捉えていなくて。それまでは自分たちで物事を考えずにやっていたケースもあったのですけど、今年は自主性を持って取り組んでいます」
 観戦者が柴田の凄みを感じるには、望遠鏡を用意するのがよさそうだ。レンズで肉弾戦を追えば、たいてい身長173センチ、体重89キロと小柄なこの人が映るのではないか。
 相手の持つ球が渡った先々で接点に身体を差し込む。タックル後に起き上がって防御ライン上の立ち位置をすぐに決める…。主将の佐藤が課題の仕事量アップでレギュラー奪還を目指すなか、その仕事量が持ち味の柴田はこう話す。
「誰と競っているかなどは考えず、強みを出していくだけです」
 中学時代の友人と違う進路を切り開いた時のように、自分の力でポジションを確立させたい。
(文:向 風見也)
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