ラグビーリパブリック

男子7人制代表・岩渕ヘッドコーチ、東京五輪に向け「学び」と「実験」へ。

2018.08.01

男子7人制日本代表の岩渕健輔HC(左)。ワールドカップ・セブンズにて(撮影:松本かおり)

 7月20〜22日のラグビーワールドカップ・セブンズ(アメリカ・サンフランシスコ)を15位で終えた男子7人制日本代表は、2020年の東京オリンピックに向け急ピッチで強化を進めている。
 今年6月就任の岩渕健輔ヘッドコーチ(HC)は、7月30日〜8月6日の男子セブンズ・デベロップメント・スコッド(SDS)合宿の練習メニューにワールドカップ・セブンズのレビュー内容を反映。元7人制南アフリカ代表HCのポール・トゥルー氏ら、世界で活躍するスポットコーチも招いた。選手が「緊張感が増した」と口を揃えていたプログラムを、さらに改善させている。
「いろいろな要素がありましたが、負けたゲームではキックオフのところがうまくいかなかったのは間違いない。一方で、もしキックオフでうまくいかなくても他のところで取り返せればよかったのですが、そこでの気持ちの切り替えもうまくいかなかった。(それをもとに)練習の順番も大きく入れ替えました」
 岩渕HCが理路整然と説明したのは、ワールドカップ・セブンズ後のマイナーチェンジについてである。
 確かに言葉通り、大会前の練習では開始と同時に実戦セッションに入っていたのに対し、今回の合宿初日はキックオフの確認、走り込み、パス練習を順に実施。ロスの少ない試合形式メニューで締めたのは従来通りに映るが、全般的には「練習の順番も大きく入れ替えた」といってもよい。
「キックオフがよくなかった理由には、技術的なこと、並びなどいろいろな要素がありますが、1日目から2日目に向けた準備、気持ちの切り替えといった問題のほうが大きいと思っています」
 今回のSDS参加者16名(合流前の選手や練習生を含む)中8名がプレーしたワールドカップ・セブンズでは、初日こそウルグアイ代表との1回戦を33−7で制した。2回戦では強豪フィジー代表に10−35と屈するも、一時リードを奪うなど健闘した。
 ところが2日目に入ると、チャレンジトーナメント準々決勝でカナダ代表に17−35で惨敗。続く3日目の13位〜16位決定トーナメントでもロシア代表に20−26で負けた。同日のラストゲームとなる15位・16位決定戦ではワールドシリーズ常連のケニア代表に26−14で勝っているだけに、指揮官は敗戦時に乱れていたキックオフとその背後にある精神的な浮き沈みを問題視したのだ。
 
 大会では初日に全てを賭けて勢いを作りたかったという前提を踏まえ、こう続ける。
「ウルグアイ代表戦に全てを賭けて臨んで、次のフィジー代表戦に後半届かなくなったところでカナダ代表戦前にうまく切り替えられず、最初のキックオフを取れず、余計に切り替えられなくなったと捉えています。最終戦ではロシア代表に負けてケニア代表に勝った。逆に言えば『(最後の)もうひと頑張り』はできたということになりますが、ケニア代表が弱くてロシア代表が強かったのかと言われればそうも言いきれません。今回、我々も初日に賭けて行かせた分、(2日目が低調に終わったのは)自分自身の反省のひとつです」
 当面のターゲットは、8月にインドネシアのジャカルタでおこなわれるアジア大会、11月から来年にかけ世界各国を回るワールドシリーズだろう。今回の合宿中の4、5日には、北海道バーバリアンズ定山渓グラウンドでおこなわれる日本協会主催の「アジアインビテーショナルセブンズ2018」に参加。選手を見極めるのに加え、コーチングスタッフの強化にも注力する。
 その意思の表れが、スポットコーチの参加だ。岩渕HCが就任と同時に「力を貸して」とラブコールを送ったというトゥルー氏は、南アフリカの他にケニアでもナショナルチームを率いたことのあるスペシャリスト。いまの所属先のストーマーズ(15人制のスーパーラグビーに参戦)が休暇期間中とあって今度の来日が叶ったなか、現コーチ陣の仕切るトレーニングに目を光らせる。
 岩渕HCは「ポールは、私が考えるなかで世界のセブンズ指導者のなかではトップ5に入る1人。練習の組み立てや技術面で、私自身もアドバイスをしてもらいたいと思っています」と、バックアップに期待した。
「15人制のトップリーグならジェイク・ホワイトさん(元南アフリカ代表HC、現トヨタ自動車監督)、ロビー・ディーンズさん(元オーストラリア代表HC、現パナソニック監督)など世界でも名将と言われる人たちが各地にいて、スタンダードは上がってきている。ただセブンズで(世界を知れるチャンス)はこの場にしかなく、海外にもクラブチームがあるわけでもない。ノウハウ的なものは門外不出のようになっています。ただ、ポールには今後も定期的に(日本へ)来てもらえそう。トータル的にいいプログラムにしていきたいと思っています」
 おもに北海道で過ごすこととなる今回のキャンプだが、初日の練習会場は東京・府中朝日フットボールパークだった。東京オリンピックの決勝が2020年7月29日におこなわれるためだ。
 7月31日以降に北の大地へ移るのにも、理由がある。
「大会(アジアインビテーショナルセブンズ2018)があるからということもありますが、一番大きいのは暑熱(順化)です」
 今年はアジア大会前に関東地区で合宿予定。比較的涼しい北海道でトレーニングを積んだ後、暑いであろう東京近郊でキャンプを張ることとなる。このスケジュールを遂行するなかで見えたものを、オリンピック直前の準備に役立てたい。
「例えば1か月間半もここ(真夏の東京)にいると、メンタルにも身体にもかなりの負担がかかるのがわかっている。(2020年も)このぐらいのタイミング(大会1か月前)である程度の期間、涼しいところで(練習強度を)上げて、その後に東京に帰って来たい。その時、どのくらいの期間で暑熱に対応できるか。それを向こう2年間の実験で見たいと思っています」
 全てのナショナルチームの参考になりそうなロジックを紹介しつつ、悔いなき道を歩む。
(文:向 風見也)
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