関東大学対抗戦Aの慶應義塾大には、丹治辰碩がいる。身長184センチ、体重91キロのFBは、相手を惑わすステップワークで防御網を切り裂く。自己分析をすれば、「自分で納得してものごとを進めていきたいというタイプ」とのことだ。
卒業後はトップリーグのクラブでプレーするだろう。トップリーガーは社員選手とプロ選手に分かれるが、丹治は後者への興味が強そうだ。競技に集中できる状況に身を置けば、さらに成長を加速させられると言い切る。
「ひとつのものごとに集中した時、他の人よりもできるようになるところが自分にはある。そこが、向いているかな、って」
振り返れば、慶應高ラグビー部時代に高校日本代表入り(故障で辞退)も、大学入学後はアメリカンフットボール部へ加入した。その後は一時的に自由の身になって、英国への短期留学も経験。大学のラグビー部に籍を置いたのは2年の春からだった。それでも間もなく、伝統あるクラブの主力選手となったのである。
だから「自分で納得してものごとを」「集中した時、他の人よりもできる」と自己分析して職業戦士を目指すのも、自然な流れなのだ。過去の悔いなき決断について、こう言葉を選ぶ。
「こう言うとわがままみたいに取られちゃうかもしれませんが、あの時(大学2年時)も、自分の気持ちを整理して、自信を持って(ラグビー部に)入っていったというところがあります」
いまはまず、慶大でのラストイヤーに「集中」する。春は前年に負ったひざの怪我の治療に専念し、6月17日の同志社大との定期戦で復帰(愛知・豊田スタジアム)。ここでは19−26と敗れていて、カムバック前の関東大学春季大会・Aグループでも2勝3敗と負け越した。
もっとも丹治は「新しいことに取り組んでいる分、ミスが起きていた」。悲観はしていない。
「結果としては強い相手(昨季4強以上の帝京大、明治大、大東文化大)に負けてしまったのですが、それ以上に試合で課題を得られたことがよかったと思っていて、ネガティブには捉えていないです。出る課題がだいたい一緒だったので、そういうところを夏にやって、(シーズンが本格化する)秋に完成した慶大をゲームで見せられれば」
ここでの「課題」は、プレー選択の判断を指す。防御ライン上での選手間も連係などについて、「失敗を経て、『こういう時は、こうだよね』『これを意識すれば、大丈夫』という要素がいくつか出た。それが大きい」。大量失点を喫したゲームからも、失点をしないコツをつかんだのだという。
これら改善項目の多くは、就任4年目の金沢篤ヘッドコーチに気付かされた。丹治は指揮官の指摘に感謝しながら、「試合中に選手が(課題に)気付けて修正できるようになったら、さらにチームがひと皮むける」。選手の問題解決力を高めることで、日本一に近づきたい。
(文:向 風見也)