ラグビーリパブリック

沖縄勢、御所の地で切磋琢磨。

2018.07.26
御所フェスティバルに参加した嘉手納(黒とエンジ)と読谷の部員たち。
後列右端が嘉手納の普久原朝久監督、中列右端が読谷の久場良文監督。
 暮らしている南西の島と比較する。
「暑いです。沖縄も同じだけど、あっちはまだ風が吹いています」
 座間味凜(ざまみ・りん)は奈良の御所にいる。37度の猛暑に驚きながら、高校生同士のラグビーに期待感をにじませる。
「楽しみです。チーム力が上がります」
 嘉手納(かでな)のFL主将は、褐色の中の黒い瞳を輝かせた。
 部員はマネジャー2人を含め19人。読谷(よみたん)とともに、沖縄から「2018年度 御所ラグビーフェスティバル」に参加した。主催は全国準優勝3回の御所実。7月21日から7日間の予定で始まった。今年は昨年より1増の36チームが集まる。
 2校は22日午後に到着。2泊3日で20分のみの試合を6ずつ、合同で1をこなした。
 ともに全国大会出場歴はない。木本(三重)、つるぎ(徳島)、北条(愛媛)など花園出場校との対戦で全国レベルを感じる。
 空き時間には、合同練習などもして、本土の高校と交流を図る。
 嘉手納の監督で保健・体育教員の普久原朝久(ふくはら・ともひさ)は意義を口にする。
「県内では練習ゲームができるチームは限られます。相手の攻め方も読める。県外ではそんなことはありません。だから、底力をつけられます。団結もできます」
 チームが御所の地を訪れるのは、昨年に続き2回目だ。
 両校は那覇から空路で大阪入り。関西空港からJRで、さらに2時間をかけ、最寄り駅の玉手に着いた。乗車賃は1710円。バスをチャーターしなかったのは、交通費を圧縮する意図だけではない。
「沖縄には電車がありません。この中には初めて電車に乗った子もいます。そういう人生経験もさせてあげたいのです」
 読谷監督で化学教員である久場良文(くば・りょうぶん)は話す。
 今回の遠征費用は4万円ほど。御所実のセミナーハウスなどを利用するので、宿泊費はかからず、ほとんどが交通費に消える。
 沖縄に帰れば、オフを利用してチームでアルバイトをする。普久原は説明する。
「クリーニング屋さんの工場に行きます。ウチが5日間、働かせてもらって、その後に読谷が5日入ります」
 その賃金で出費を補てんする。
「親の負担を減らさないといけません」
 座間味は神妙な面持ちだった。
 このフェスティバルを知ったのは久場だ。
 御所実コーチで保健・体育教員の中谷圭(なかたに・きよし)と出会う。2012年、東京での強化コーチの研修会だった。
「中谷さんに『ウチはフェスをやってるよ。来ない?』と誘っていただきました」
 B級レフェリーとして、地元の大きな試合で笛を吹いていた久場は、翌2013年から、審判として参加する。
 4年目の2016年からチームを引率する。2017年には部員が1人になったので、前任校だった嘉手納に参加を呼びかけた。両校は沖縄本島では中南部に位置する。距離約4キロ。車に乗れば10分ほどで着く
「敵視とかライバル意識はありません。地域のラグビーを一緒に盛り上げる仲間です。」
 学区内には読谷、古堅(ふるげん)とラグビー部のある中学がある。今年4月には、読谷に経験者7人を含む19人の新入生入部があった。一挙に単独出場が可能になる。女子選手は2年生2人、マネジャーは1年生3人。現在は24人が在籍する。
 指導者2人は久場が1歳年長の38歳。ともに県ラグビー協会の委員会の副委員長をつとめる。久場はコーチ、普久原は高校だ。
 出身高校はともに名門のコザ。花園出場回数は2位の15。名護の16を1差で追う。
 2人が教えを受けた監督はOBでもある安村光滋。現役時代は小柄だがスピードのあるWTBで、沖縄初の高校日本代表(1984年度)になった。筑波大を卒業後、赴任する。
 コザの創部は1971年(昭和46)。アメリカ統治下から日本に復帰する前年だ。県内では読谷などとともに最長の歴史を有する。
 県勢花園初勝利を記録したのもコザだった。安村が3年の64回大会1回戦で石巻(宮城)を15−0と降した。県勢としては、初の花園出場となった60回大会(1980年度)の石川以来、4度目挑戦だった。これまで、花園の芝を踏んだのは、コザ、石川、名護、宜野座(ぎのざ)の県立4校のみである。
 久場は福岡・北九州にある九州共立大の工学部(現在は廃部)に進む。学生時代は帆柱クラブでSO、WTBなどをこなした。
 普久原は社会人を1年経験した後、東海大に入学する。一学年上には湯浅大智がいた。
「自分もがんばらないといけない、といういい刺激をもらっています」
 東海大大阪仰星の5回の全国優勝に選手、コーチ1回ずつ、監督3回とすべてに絡んでいる先輩とポジションは同じFLだった。
 現在の沖縄は、コザと名護が覇権を争う。
 春の大会、嘉手納は名護に8強戦で0−59。読谷は美里、北谷(ちゃたん)との合同で4強戦においてコザに20−49で敗れた。
 秋の目標はそれぞれ違う。
 座間味は高校最後の大会に意気込む。
「決勝までいきたいです」
 久場は単独出場を考える。
「出たいですけど、どうなるか。初心者が多いし、ケガ人も出ていますから」
 将来的には、2強を脅かす存在になりたい。アルバイトを入れながら参加した御所での経験は、その跳躍台になってくる。
(文:鎮 勝也)
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