パナソニックのFL劉永男。東芝との強化試合で後半から出場、トライにつなげるボールキャリー
(撮影:見明亨徳)
東芝に今季加入した韓国の後輩、LO梁(右)に期待する(撮影:見明亨徳)
パナソニックワイルドナイツは7月7日、2018強化試合3戦目を東芝ブレイブルーパスと戦い、31−26で破り初勝利を飾った。
この試合、後半20分すぎに右FLでピッチに立ったのが劉永男(ユ・ヨンナム)。試合を決めることになった決勝トライにつながる突破を見せた。今シーズン、初出場なから相変わらず激しい闘争心を持ち続ける。
ニックネームは「ユさん」。今シーズン、肩書が加わった。フォワードのアシスタントコーチだ。試合後も水間良武アシスタントコーチ、LO三上匠、長谷川崚太らと反省会をしていた。
「水間さんについてラインアウト、キックオフなどのプレーを見ています。ラインアウトのサインについても。スタッフミーティングにも出ることでチームのことを別の角度から見ることができる。楽しいです」とユさんは話す。
試合後はFW陣と反省会(撮影:見明亨徳)
11年目のシーズンを迎える際にラグビーへ取り組む姿勢をチェンジした。2016年度シーズンのトップリーグ公式戦出場はゼロ。昨シーズンは2試合。第11節(2017年12月10日)の宗像サニックスブルース戦に先発FLで後半10分まで。第13節(12月24日)リーグ最終戦のヤマハ発動機ジュビロ戦でリザーブ19番、後半32分からLOに入った。
過去2年間で2試合58分間の出場歴だ。2015年度シーズンは先発で10試合に出ていた。現・元の日本代表、各国代表がひしめくワイルドナイツの2列、3列は、厳しいチーム内競争を戦い抜いた者が試合に出る権利を得る。ユさんも常日頃「練習で100%以上出さないと試合に出ることはできない」と実践してきた。しかし周囲のレベルが高い壁だ。
昨シーズン終盤、チームから今年どうするか自分で決めて伝えて欲しい、と話があった。事実上、選手としては戦力外通告に近い。「選手を続けるか考えました。実際に他のチームから誘いがありました」とユさん。チームから選択肢として「ラグビーを勉強したいならば、その道もある」というメッセージも得ていた。「自分としてラグビーもしたいが、将来のことを考えるとコーチングの勉強にも関心があった」。そして選んだ結論がアシスタントコーチ兼務選手の道だった。
試合前は黙々と練習相手を務める劉(撮影:見明亨徳)
2008年にアジア枠制度を導入した三洋電機に加入した。2005年、檀国大時代に韓国代表に選ばれていた。三洋にいた仁川機械工業高−檀国大の3年先輩、PR金光模(キム・グァンモ、現ポスコ建設コーチ)と同じ道を選んだ。飯島均監督(現部長)に早朝練習から徹底的に鍛えられた。パス、ボールキャリー、スクラム、タックル、ラインアウトジャンパー、ラインアウトコール。貪欲に身体を鍛えチームのラグビーを吸収していった。そして2年目の翌2009年度シーズン終了後、FLとしてベストフィフティーンに選ばれた。以後もレギュラーとして三洋、パナソニックのトップリーグ、日本選手権優勝に貢献した。
ユさんには目標がある。「韓国に戻り韓国代表のコーチになる」というものだ。トップリーグ経験者が韓国に戻り指導者になる道は徐々に広がっている。代表(15人制、7人制)コーチは檀国大の先輩、SH梁永勲(ホンダヒート)が2017年から担当している。社会人、大学、高校各レベルで教えている。一方で、チーム数が少ない韓国では指導者の採用枠も狭い。現在、就いている指導者のリタイアを待つしかないのが実情だ。
「選手としては今年限りと思っています」。ワイルドナイツでコーチングを身につけて韓国へ戻り、ジャパンと対戦し育ててくれたジャパンに恩返しをする。
韓国から今年も5人の代表選手たちがトップリーグなどのチームにやって来た。この日も東芝では韓国代表LO梁大炴(ヤン・デヨン)が先発。チームに加入して3か月、今春の韓国代表招集を断り東芝を優先した。結果、チームへの順応やプレーに成長ぶりを見せた。「きょうは先輩と対戦できるので嬉しかった」。試合後は言葉を交わした。「トップリーグに入ったということだけではダメ。スタートラインに立ったばかり。一生懸命努力しないと」。ユさんは後輩へ日本で生きるための最低の基準を教えた。
7月7日は首都圏で韓国出身の新人選手が出場の試合が計3試合おこなわれた。
クボタスピアーズのPR/HO羅官榮(ナ・グァンヨン)はホンダヒート戦に出場(33−22でホンダが制した)。リコーブラックラムズのCTB金宣求(キム・ソング)はサントリーサンゴリアス戦の前半に一時交替出場、後半最後にもピッチに入った(14−14で引き分け)。
(文:見明亨徳)
サントリーとリコーは引き分けで終えた(撮影:見明亨徳)