大学選手権10連覇を目指す帝京大は今季、関東大学春季大会Aグループでの優勝を逃した。NO8のブロディ・マクカラン副将は「相手より、自分たちのやりたいプレーのことを考える」と話す。
関東大学対抗戦のチームと同リーグ戦のチームが交わる春季大会は、2012年に開設された。対抗戦Aに加盟する帝京大が同大会制覇をし損ねたのは、今季が初めてのことだった。4月30日の北海道・札幌ドームでの初戦で、昨季の大学選手権決勝の相手、明大に14−17で敗れたためだ。
しかしマクカランは、「悔しかったけど、あと、3回、試合します。楽しみです」。夏の練習試合、秋の関東大学対抗戦、さらには大学選手権のクライマックスとこの先「3回」は明大に挑めると読む。いまは地に足をつける。
ニュージーランドはハミルトンボーイズ高を卒業後は、大工などを経験したのちに来日を決意。身長192センチ、体重106キロのハードワーカーは、1年時から主力組に定着。今年度は、チーム史上2人目となる外国人の副将となった。
「今年はすごいチャレンジ。周りを見て話すようにもしています」とし、改めて異国での日々を振り返る。
「(岩出雅之)監督には、1年から『(将来の)主将だ』と言われていて…。無理だと思った。日本語を話すのは難しいから。でも、いいサポートがあった。僕の学年は優しくて、1年から試合に出ている竹山(晃暉)と(小畑)健太郎は、監督の話すことを通訳してくれていた」
ここまで、流ちょうな日本語を重ねる。続いた言葉は、「いまも、秋山が優しい日本語を言ってくれる」だった。
名前の挙がった秋山大地主将は、4勝1敗で終えた春季大会期間中にこんなテーマを掲げたことがあった。
「どんな試合展開になっても、波を作らないでやっていこう」
スコアボードがどうなろうとも、ひとつひとつのプレーの質を保ちたかった。球を持って相手にぶつかった後に一歩でも足を進める。倒れてもすぐに起き上がって防御網を敷き詰める…。勝負が決まってからも、かような下働きをおろそかにしたくない。
明大戦後は、自分たちの私生活を見直した。将来の日本代表入りを目指し常勝集団の仲間入りを決めた徳島・つるぎ高出身のLOは、「私生活とラグビーはつながっていると思っていて…」。グラウンド外での規律を保ち、グラウンド内での丁寧なプレーぶりにフィードバックさせたいという。身長192センチ、体重111キロの巨躯だが、試合終盤までタックルとその後の素早い起き上がりを貫く。
6月3日、東京・帝京大百草グラウンド。春季大会4戦目で、流経大を82−17と下した。この時も秋山は、得点板は意に介さなかった。チーム全体のタックルスキルについて、反省するのみだった。
「アタックの部分では80分間を通して攻め続けられましたが、(失点場面は)簡単に取られすぎた。ディフェンスは強みになるべきところなので、粘り強くしたかったです。(タックル時、やみくもに)飛び込んでしまっているので、もっと踏み込めるように」
攻撃を組み立てるBK陣は、前年のレギュラーが卒業したことで大きく入れ替わっている。
なかでも最後尾のFBでは、身長179センチ、体重80キロの奥村翔が定位置確保へアピールを続ける。もともとSOだったが、岩出監督の提案も受けコンバートを決めた。キック力とランスキルを、グラウンドの一番後ろで活かしにかかる。
FBには前年までの2年間、1年時からWTBでレギュラーの尾崎晟也(現サントリー)が入っていた。的確な位置取りで味方WTBが気持ちよく走るスペースを作り、素早い声掛けで前方の防御を整えていた。枢軸だった。
今季は経験者から若者へバトンタッチがなされ、秋山主将も奥山ら新たなレギュラー候補へ「試合運びというところでは、もっと」と注文を付ける。
何より当の本人が課題を自覚していて、特に防御時に「FWが寄っちゃうところのコントロールがまだできていない」と話す。とかく接点周辺へ固まりがちなFW陣へ適切なポジショニングを促せるよう、的確に声をかけねばと感じている。試合経験を重ねることで、フィールド全体に気を配る余裕を身につけたい。
ちなみに尾崎も奥村も京都・伏見工出身だが、3歳年下の奥村は尾崎のことを「晟也君」と呼ぶ。日本特有の上下関係より、アスリート同士の信頼関係で結ばれている。
攻撃時に奥村が意識するのも、「晟也君」のプレーぶりだ。
「去年の晟也君も自分だけじゃなくWTBを動かすようなプレーをしていた。僕も2対1を作れるようなプレーを意識しています」
流経大戦でも、防御の隙間へ駆け込み大外にパスするシーンを創出。攻撃側が2人で防御側が1人という「2対1」の場面を多く作れるよう、ボールをもらう前からフットワークを駆使し相手をかく乱したいという。
「練習でディテール(細部)を丁寧にやることでどんどん(試合の)点差も広がってきますし、決勝ではそういうことが大事になる」
異国のスキッパー、生真面目な船頭、可能性を広げつつある新星。それぞれが、積み重ねの成果としてのV10達成を目指す。
(文:向 風見也)