サンウルブズ、今季国内最終戦となったレッズ戦直前の表情(撮影:松本かおり)
■今のジャパンには、スーパーラグビーを戦ってきた有形無形の財産がある
先週末で2018年のスーパーラグビーはレギュラーシーズンの5分の4強にあたる16節までを終了した。ここから3週間は、各国の代表がテストマッチを行う国際交流月間のためリーグ戦は一時休止となる。今週末から始まる日本代表のイタリア、ジョージアとの連戦を展望する意味も込めて、サンウルブズの今季の戦いを振り返ってみたい。
まず戦績について。開幕から9連敗した時は「このまま1勝もできずに終わるのでは」との不安もあったが、ホーム最終戦となった第13節のレッズ戦でそれまでのもどかしさを吹き飛ばすような快勝を収め、チームとファンを覆っていた重苦しいムードはひとまず拭われた。さらに、続く香港でのストーマーズ戦の劇的な逆転勝利により、順位表の見栄えはうんとよくなった。
3試合を残した時点で2勝11敗、勝ち点10で15チーム中最下位の成績を、満足できる数字とは言えない。もう2つ3つ白星を積み重ねるチャンスはあったし、もっとコンスタントに接戦に持ち込めなければ、スーパーラグビーにおいても日本のスポーツ界においてもサンウルブズの存在感は高まらない。ただ、個人的には、よく戦っているとも思う。
今シーズンのスーパーラグビーは3チームが削減され、15チームでの開催となった。昨季全体11位の南アフリカのキングスと同14位のチーターズ、オーストラリアのフォース(同12位)が抜け、かつその主軸選手が他のフランチャイズへ分散したことで、リーグ全体のレベルは上がった。現在の勝利数は去年の終了時と同じ「2」だが、その重みには少なからず違いがある。
実際、試合内容を見ても、サンウルブズの成長を感じる部分は多い。サイズで上回る相手のアタックにもしっかりと体を当てて押し戻せるようになり、簡単に攻撃を継続されてゴールラインを明け渡すシーンは大幅に減った。ふと気の抜ける瞬間や疲れの出てくる終盤に、いわゆる「ソフトなトライ」を与えることはまだまだあるが、ディフェンスで粘り強く対抗できるようになったことで、プランに沿って組み立てられる試合が大幅に増えた。昨季までは立ち上がりにポンポンとトライを取られてどうしてもリスキーな選択を強いられ、思い描くゲームメイクをできないパターンが多かった。明確な進歩だ。
アタックでは、強いプレッシャーがかかる中でのプレー精度と判断力が向上した。序盤戦で目立った、ボールキャリー時の姿勢の高さゆえにかかえ上げられて球を殺される課題もNZ遠征をきっかけに改善され、ここ数試合はリズムよくフェーズを重ねて攻め込めるようになった。チャンスを作り出したところでの取り切る力が高まれば、もう一段上のレベルの戦いが可能になる(もちろんそれが大変なのだが、そこに至るまでのステップを上がってきただけでも相当な成果だ)。
次に選手編成について。登録メンバーの7割以上を海外出身者が占めたブランビーズとの開幕戦を皮切りに、今季は外国人選手を軸にした構成がより顕著になった。2019年のラグビーワールドカップまでに日本代表資格を取得できない選手も複数含まれていることから、起用法に対し否定的な意見は少なくない。もっと日本人選手を使って経験を積ませるべきではないか。そうした声が上がるのはもっともだと思う。
一方で、簡単に「そうすべきだ」と言い切れない事情もある。理由は選手のコンディションだ。
現在サンウルブズと日本代表の両方でプレーする選手たちは、明らかにオーバーワークの状態だ。2月から7月までスーパーラグビーがあり、8月から1月まではトップリーグ、その間6月と11月に日本代表戦。まとまった休養をとる時間はどこにもなく、その状態が2015年以降ずっと続いている。このままでは万全の状態でワールドカップに臨むどころか、パフォーマンスを維持することすら難しいだろう。となればどこかで出場数を制限しなければならないが、本来の所属先であるトップリーグクラブの負担を考慮すると、少なくとも今季についてはサンウルブズでの活動をコントロールする以外に解決策はない。もとより前シーズンのケガを抱えたままサンウルブズに参加した選手も少なくない。
またスーパーラグビーは、極めて高強度のゲームが毎週のように続く厳しいコンペティションだ。連戦で蓄積する疲労を考慮してメンバーをやり繰りしなければ、17週間に渡るシーズンはとても戦い抜けない。加えてサンウルブズは、全チーム中でもっとも移動距離の負担が大きいチームでもある(平均的なチームの約3倍に相当)。日本代表に近い顔ぶれを毎試合維持するのは、容易ではない。
ならば代表に準ずる日本人選手をもっと起用すればいい。そうかもしれない。しかし、バックアップスコッドから昇格した選手がすぐに活躍するニュージーランドや南アフリカ、オーストラリアと日本では、選手層の厚みが違う。まして現在出場している外国人選手のプレーレベルを求めるなら、選択肢はごく一部しかない。もし日本人選手にこだわって惨敗が続けば、チームは自信を失い、世の中の関心も薄れていってしまうだろう。一定の競争力を保つには、代表資格のない外国人選手の力を借りるのも仕方のない側面がある。
選手のコンディショニングとリーグにおける競争力の向上、そしてもっとも重要な日本代表のための戦術戦略の成熟。今のサンウルブズは、過酷な条件の中でそれらすべてを求めていかなければならない困難な状況にある。そう考えればメンバー編成についても、十分とまでは言えないまでも、一定の評価はできるのではないか。
最後に、戦い方について。積極的にキックを用いるスタイルは、今もメディアやファンの間で賛否両論ある。私見を述べれば、相手防御を左右だけでなく前後にも揺さぶって崩しにいくのは理にかなっているし、体格の小さな日本ができるかぎり衝突を避けて前進するために、キックを効果的に使うことは必須だと思う。
問題は「バランス」と「精度」だろう。昨年のスーパーラグビー開幕戦のハリケーンズ戦や、6月のアイルランドとの第1テストのように、単純に蹴り込むだけならただ相手にボールをあげて攻めさせるようなものだ。一方で、キックを一切使わずつないで攻めるだけでは、相手防御は的を絞りやすくなる。
ラグビーには、パス、ラン、キックの3つの選択肢があり、それを相手によってバランスよく組み合わせることで、効果的な攻撃を仕掛けられる。アウェイで引き分けた昨年11月のフランス戦は、相手が引き気味に守ってきたためキックではなくパスとラン主体の攻め方に切り替えたことが奏功した。逆に今季のスーパーラグビーで勝利を挙げたレッズ戦とストーマーズ戦では、ハイパントで背走させて相手FWの体力を削り、前に出てくるディフェンスラインの裏を的確に突いてたびたびチャンスを作っている。
レッズ戦とストーマーズ戦では言うまでもなくSOのヘイデン・パーカーの存在が大きかった。ジャパンにパーカーはいない。でも、だからといってキックによる崩しを放棄するべきではないと思う。キックそのものの精度はもちろん、キャッチに行く選手との連携やチーム全体でのチェイシングの正確性を高めるためには、プレッシャーのかかる実戦で実践を重ねていくほかない。たとえばトニー・ブラウンコーチが練り上げるシステムに田村優の独特の感覚と周囲の呼吸がぴたりとマッチするようになれば、今以上に多彩でディフェンスしづらいアタックになる可能性だって十分ある。
世界ランキングでは日本より下だが、イタリアとジョージアは強い。シックス・ネーションズでもまれるイタリアの底力は確かだし、ジョージアは昨秋のテストマッチにおいて敵地でウエールズに6-13と迫るなど、欧州強豪国にも対抗できる存在へと急成長している。一方で、だからこそJJ(ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ)ジャパンの現在地を把握する上で、絶好の相手だとも言える。
いずれも強力FWが看板で、イタリアは縦突進で食い込んだところでのつなぎ、ジョージアはセットプレーとモールの破壊力に定評がある。そこで受けに回れば苦戦は必至だ。ただし今のジャパンには、南半球のトッププレーヤーがひしめくスーパーラグビーを戦ってきた有形無形の財産がある。日本ラグビーのために、とりどりの背景を持つメンバーが一丸となって困難を乗り越えることで培われた地力は、そう簡単にはぐらつかない。
あ、やっぱりこんなに強くなっていたんだ。そんな言葉で成長を実感する予感はある。
【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。