麻生健太朗のボールキャリー。何度も前に出た。(撮影/松本かおり)
久しぶりの15人制に疲れた。
でも、その感覚が心地よかった。
前半の50失点が響いて明大に33-62と敗れるも、5番を背に戦った東海大の麻生健太朗は、試合後も額に汗を浮かべていた。
5月6日、秩父宮ラグビー場。麻生は関東大学春季大会の明大戦に先発し、後半19分に交代するまでタックル、そしてボールキャリーでチームに貢献した。
今年に入ってセブンズのメンバーに起用され、YC&AC大会で優勝するなど活躍を見せてきた。そのパフォーマンスが評価され、この日はAチームのLOに起用された。
「チームの代表としてプレーできたことが嬉しかった」
東海大相模高校でラグビーを始めた4年生は、日焼けした顔を少し崩した。
190センチ、117キロと堂々の体格。
しかし、2年生の春から3年生の秋まで空白の時間を過ごした。
脳しんとうに悩まされたからだ。
昨秋なんとか復帰し、いくつかの練習試合に出ただけだから、久々の40分ハーフを「走れなかった」と振り返った。
「(プレーできなかった期間に)増えた体重を、セブンズでプレーするために落としました。セブンズに出る準備や試合でだいぶ走れるようになり、スキル面も準備したので、それがAチームでプレーすることにつながったと思うのですが、やっぱり40分(ハーフ)は長かった」
前半、ブレイクダウンでプレッシャーを受け、ターンオーバーから何度も攻め切られたことを悔やんだ。チームが大学日本一になるための力になりたい。4年生としての役割を果たすつもりだ。
復帰までの1年半は辛い時間だった。
プレーをやめようか…。そう考えたこともあった。
何度か脳しんとうを重ねた2年生の春。関東大学オールスター戦のリーグ戦選抜に選ばれる名誉も、その試合でまた頭を打って退場した。
病院へ向かった。
クセになっているから、しばらく様子を見よう。
ドクターから、そうアドバイスされた。
練習だけの日々が長く続いた。
脳しんとうの原因となっていた、タックル時の悪いクセを直す練習にも取り組んだ。
「監督、コーチ、周囲の人たちにサポートしてもらいました。タックルが改善ができているか見てもらったり。チェックしてもらうことで、安心できるんです」
木村季由監督に「しばらく学生コーチをやってみないか」とすすめられ、指導する側にまわった期間もあった。
「人のプレーを見ていると、いいところ、悪いところが分かってきました。それを自分のプレーと比べたり、活かしたり、とても貴重な経験になった」
技術的な改善。それによる恐怖心の払拭。
それらを重ねることで、少しずつ心身両面が回復に向かった。
焦らず。急がず。一歩ずつ。
木村監督はそんな日々を知っているから、YC&ACセブンズで麻生が表舞台に復帰し、思い切りプレーしたことを、優勝した結果以上に喜んだ。
そして、その先の一歩が今季15人制初戦での先発起用だった。
白いヘッドキャップをつけた巨漢LOは、紫紺のジャージーと堂々とやり合った。
また、やったら…。そんな怖さは心の奥底にはあるけれど、「やるからには全力でやりたい」と麻生は言った。
「しっかりプレーすれば大丈夫だと信じています。疲れてくると、正しくプレーできなくなるので、そういうときに意識することが大事。そして、人に見てもらう。監督やコーチは、いつも(悪いクセが出ていないか)指摘してくれます」
スクラムやラインアウトの真ん中でFWを支える男は、いつも仲間のサポートを感じている。
大学ラストイヤー。支え、支えられて濃密な時間を過ごす。