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【谷口誠 コラム】解任劇に憂う。ラグビーに備えはあるか。

2018.04.12
14日にホーム第5戦を迎えるサンウルブズ。ジェイミー・ジョセフHCは、日本代表の指揮も執る(撮影:松本かおり)
■その危機が迫った時、ラグビー協会として評価する体制はできているのか。
 世間をにぎわしているサッカー日本代表、ハリルホジッチ監督の解任劇。9日に行われた日本サッカー協会の記者会見を取材したとき、心配になったのがラグビー日本代表のことだった。
 
 こちらも今すぐ代表の指揮官を解任すべき、という意味ではない。サッカー協会のような大胆な決断を下せる環境が、ラグビー界にあるのかという不安である。
 サッカーのワールドカップ(W杯)が目前に迫る中での監督交代は、手放しで称賛できるものではない。後任者に与えられた時間は2か月。チームの活動期間としては3週間しかない。「確かにタイミングとしては遅いんじゃないかということはある」。サッカー協会の田嶋幸三会長も記者会見で正直に語った。
 新監督に就いた協会の西野朗・技術委員長は本来、監督を補佐し、評価する立場である。
「このタイミングだからこそ西野さんになった。もっと前(の交代)なら西野さんでないこともあった」と田嶋会長。決断が後ろ倒しになったことで、後継者選びの幅を狭めたことも認めている。監督を代えるなら、もっと早い時期の方が良かったことは言うまでもない。
 
 ただ、解任の是非や、後任の人選は本稿の趣旨ではない。着目したいのは、この決断に至るまでのサッカー協会の組織としての準備である。
 
 解任は田嶋会長のトップダウンの決断だったが、「さまざまなスタッフらから話は聞いている。選手からの話を聞いたこともある」とも説明した。組織的に集めた情報を根拠にチームの現状を評価し、今後の推移を予想した上で決断。その後の対応策も用意できていた。決して十分ではなかったかもしれないが、ラグビー界の場合、それすらできるのかどうかが分からない。
 
 ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)の補佐や評価は、協会の薫田真広・15人制強化委員長が直接の責任者になる。ジョセフHCやチームスタッフ、選手と密に対話をしておくことは当然の職務になる。
 
 しかし、ジョセフHC就任後の1年半、聞こえてくるのは正反対の状況ばかり。「HCと強化委員会の幹部は、かなり前からほとんどコミュニケーションを取らなくなっている」と多くの日本協会関係者が話す。
 
 ジョセフHCは今年からスーパーラグビーの日本チーム、サンウルブズのHCも兼任する。しかし、東京・辰巳で行われている練習を強化委員会の幹部が訪れた回数は「数回しかない」とサンウルブズのスタッフは明かす。
 
 サンウルブズの選手やコーチ、スタッフの多くは日本代表と共通する。代表合宿に準ずるサンウルブズの練習を見ず、HCとまともなコミュニケーションを取らないまま、どうやってHCをサポートし、評価するのだろう。
 
「サポート」の方はジョセフHCがたまらず自衛策を取った。旧知の藤井雄一郎・サニックス監督をサンウルブズのゼネラルマネージャーに起用。藤井氏は練習や海外遠征に帯同し、国内の各チームとの調整も担う。HCの意を受け、今年6月と11月の日本代表の活動も後方支援する可能性が高い。
 
 ただ、藤井氏のゼネラルマネージャー職はサンウルブズに限ってのもの。日本代表には強化委員長が別にいるのだから、HCを評価し、協会幹部に進言することまでは難しいのではないか。
 
 折しも、日本代表は正念場を迎える。6月に予定されているテストマッチ3連戦のうち、特に重要なのが最初のイタリアとの2試合である。
 
 ジョセフHCの就任後、イタリアなど「ティア1」と呼ばれる強豪国との対戦成績は1分け5敗。いまだ勝利がない。もしイタリア戦に連敗すると、4年間、ティア1に勝たないままW杯を迎える危険性が高まる。11月に戦うニュージーランド、イングランドはイタリアよりも手強い相手だからだ。
 
 19年W杯で8強に進むには、アイルランド、スコットランドというティア1勢のどちらかを1次リーグで破らなくてはいけない。「ティア1」というくくりはやや大ざっぱだし、海外勢が日本を見る目も15年までとは変わっている。しかし、心のよりどころとなる勝利が1つもないチームが、どれだけの自信をもってW杯に臨めるだろうか。
 
 6月にイタリアに連敗し、その危機が迫った時、ラグビー協会として評価する体制はできているのか。結果に加え、強化のプロセスまでつぶさに見たうえでの判断は可能なのか。仮に大きな決断を下すとしたら、その後の道筋まで準備できているのか。
 
 15年W杯までの4年間の日本代表は今と大きく違った。ティア1に2勝(ウエールズ、イタリア戦)3敗という結果だけではない。当時の岩渕健輔ゼネラルマネージャーは、13年のウエールズ戦2連戦で連敗すれば、エディー・ジョーンズHCとともに退任するはずだったと明かしている。HCをサポートし、適正に評価する体制があったことが、W杯での躍進の一因だった。
 初の自国開催のW杯が1年後に迫る中、日本代表を取り巻く環境は当時より悪化している。当然、問題を手つかずのまま放置しているラグビー協会の責任にもなってくる。これほど明白な問題を改善することは、W杯直前の監督交代より遙かに簡単な決断に思えるのだが。
【筆者プロフィール】
谷口 誠(たにぐち・まこと)
日本経済新聞編集局運動部記者。1978年(昭和53年)生まれ。滋賀県出身。膳所高→京大。大学卒業後、日本経済新聞社へ。東京都庁や警察、東日本大震災などの取材を経て現部署。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科で社会人修士課程修了。ラグビーワールドカップは2015年大会など2大会を取材。運動部ではラグビー以外に野球、サッカー、バスケットボールなどの現場を知る。高校、大学でラグビーに打ち込む。ポジションはFL。
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