半田商ラグビー部。垂見侑哉主将(前列右から2人目)、北林靖監督(中列左)、
奥田理子マネジャー(後列右から2人目)
部員難にあえぐ高校ラグビー部にとって、大切な時期がやってきた。
4月は入学式。1年生の入部数によって15人、合同など属するカテゴリーが決まる。
チームの命運が分かれる。
愛知県立半田商業高校。
青い伊勢湾に突き出る知多半島。緑が生い茂る肥沃で温暖な地に、1926年(大正15)に作られた学校はある。地元では「ハンショー」と親しまれている。
選手数は12だ。3年と2年生が6人ずつ。別に女子マネジャーが2人いる。
主将のHO垂見侑哉は希望を話す。
「僕たち3年にとって最後、秋の全国大会予選は単独チームで、15人で出たいです」
監督は保健・体育教員の北林靖である。
「合同も他校と力を合わせるよさがあります。でも、強いチームはみんな15人を集めています。ウチもそうなりたいんです」
部員と指導者の思いは同じだ。
昨秋の全国予選は1回戦で星城に0−59で敗れた。それでも15人で戦えた。
3年生が引退後の今年の新人戦は、10人制に加わる。6チーム参加の県大会で準優勝。各県2位校が集まる東海大会Bブロックでは、松阪(三重)を20−7、合同の静岡・浜松湖南(静岡)を21−17と連破して優勝した。
人数が集まらない中、結果は残している。
商業学校の強化は難しい。
簿記、経理など事務を主に教えるため、女子が多い。男子の絶対数は少ない。
「1学年に女子がだいたい230人、男子が60人くらいですね」
北林は説明する。3学年180人の中から最低でも1割近くに入部してもらわないと正式な人数での試合ができない。
そして、入ってくれても経験者は望めない。知多半島は、北部に東海ラグビースクールが存在するのみだ。
同県にあり、全国大会優勝(1996年度、第76回)を誇る西陵商からは「商」の字が取れた。隣県岐阜の関商工は工業科と併存する。
「西陵とは授業の内容は変わらないと思います。でも、東海地区で商業だけの名前を使い、ラグビー部があるのはウチだけです」
北林にはプライドがある。
半田商の創部年はわからない。ただし、強い時期はあった。
「武豊(たけとよ)が全国大会に出る以前に、胸を借りに来たこともあったようです」
半田市を南に下がった所にあるその県立校は、1983年度の第63回大会に出場している。
半田商はできて93年目。ラグビー部も半世紀は存在し続けているとみていい。
小人数、初心者、歴史などを踏まえ、北林はチームの存続をまず考える。練習ではホールドで終わらせ、コンタクトはさせない。
「痛ければ辞めていく子もいます。それに、ケガをすればチームを組めません。激しいプレーは試合で覚えてくれたらいい。まずは、ラグビーを好きになってもらいたいんです」
校務で不参加の時は、垂見を中心に3年生たちにメニューを考えさせ、やらせる。
「やらされる練習はやっつけになってしまう。彼らに決めさせた方がいいのです」
内容はパスやステップで抜き合うことが多くなる。笑顔は増え、声が上がる。
砂地のグラウンドは、野球、陸上、ソフトボールと譲り合いながら使ってはいるが、40×60メートルの広さは常に確保できる。
北林自身は厳しいラグビーを経験した。県内の刈谷北から大阪体育大に学んだ。入学時の最上級生は瀬川智広。今は東芝監督となった先輩に、同じSHとして鍛えられた。
一緒に4年間を過ごした同期には、生徒に向けるのと同じ優しさを注ぐ。
摂南大前ヘッドコーチの内部昭彦は、昨年12月の入替戦で母校に17−28で敗れる。Bリーグ落ちの落胆の中で慰められた。
「タイダイ関係者で『がんばれ』って電話をくれたのは3人だけでした。その中のひとりが北林。ありがたかったです」
周囲が浮かれる中、気遣いを発した。
その北林のクラブ運営に垂見は引かれた。中学時代はハンドボール部だった。
「男子のクラブがなかったので、何をするか迷っていたら、先輩たちが『おいでよ』と誘ってくれました。実際、練習を見たら、みんな楽しそうにやっていました」
3年生マネジャーの奥田理子は振り返る。
「クラブ紹介の時に、ラグビー部はゴロウマルの格好をしてやってきました。なんか、面白いなあ、楽しそうだなあ、と思いました」
ラグビーの象徴になった五郎丸歩(ヤマハ発動機)がキック前に腕を前で組むルーティーン。それを使うセンスが気に入った。
14人の部員たちはこの卯月、その仲間を増やしたい。そのため、カラフルなポスターや男子の人数分のちらし70枚も作った。
生徒会長も兼務する奥田は前向きだ。
「手が空いている時は勧誘の声かけをするつもりです。去年もやりました」
生徒たちのとりまとめ役としても忙しいが、楕円球へのいざないは続けてゆく。
入学式は4月6日。北林は目標を掲げる。
「6人は入ってもらいたいです。気の早い話ですが、来年度、最低でも10人制には出たいので。この2週間くらいが勝負です」
過去2年、最後の花園予選は15人で戦えた。その数字を3に伸ばしたい。
半田商にとっては、練習や試合よりも大事な毎日が幕を開ける。
(文:鎮 勝也)
部室のドアに貼ってあるポスター
新入生勧誘用に14人の部員で作成したポスター