1万3464人のファンが足を運んだチーフス戦。写真左奥がウルビーバルーン。(撮影/松本かおり)
ドーム型のエアー遊具「ウルビーバルーン」は子供たちに大人気だった。
スーパーラグビー参戦3年目となる今シーズンから登場したウルビーバルーンは、サンウルブズの公式マスコット「ウルビー」の形をしている。ドーム内の足元は“ふわふわ”で、最大12人の子どもが10分間利用できる。
ウルビーバルーンは国内第2戦まで、秩父宮ラグビー場の南スタンド脇に設置されていた。しかし国内第3戦となる3月24日のチーフス戦は、正面ゲートエリア脇に登場。試合中も順番待ちになるほど人気だった。
未就学児は保護者の同伴が必要だ。子どもに付き添った保護者はもちろん、正面スタンドの向こう側で繰り広げられている試合を観戦することはできない。
しかし、正面階段脇に設置された大型ビジョンに中継映像が流れているため、試合を追いかけることならばできていた。
ドーム内で子供が跳ね回ると、ウルビーバルーンは小刻みに揺れる。そんな姿も目を引いたのか、試合映像を見守る人になかには、通りすがりらしい人びとの姿もあった。
勤め人風の男性、自転車を引きながら入ってきたスポーツウェア姿の親子、しばし観戦して立ち去った外国人男性。
最後まで見守る人は少なかったが、通りすがりの人びとが、この日サンウルブズと接点を持ったことは確かだ。
後半20分の時点で、大型ビジョンを見上げていたのは十数人。
そんなのどかな観戦風景が一変したのは後半35分ごろ。会場からドッと人が溢れ出てきた。
試合映像に表示されていたスコアは、10−54だった。
後半38分、SOダミアン・マッケンジーのショートキックを途中出場のショーン・ワイヌイが確保し、ゴール下にチーム9トライ目。SOマッケンジーのゴール成功で10−61。
フルタイムが近づくと、秩父宮を後にする人の波はさらに激しくなった。
この日のサンウルブズは、遠征先の南アフリカでおこなわれた第5節ライオンズ戦から、先発メンバーを11人変更していた。
この大幅なメンバー変更について、サンウルブズのジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、海外遠征帰りで複数選手に時差ボケなどの影響が残っていたこと、チーフス戦へ向けた試合週の準備期間が「3、4日しかなかった」(ジョセフHC)こと、また怪我人の存在など、複数の理由を挙げた。
時差ボケについて、この日フルバックで先発した野口竜司は「ちょうど昼ごろ、移動のバスなどでけっこう眠くなったりします」。
チームドクターやS&Cコーチの助力を得て、帰国前から時差ボケに対する準備をしたが、それでも帰国2日後くらいまでは影響を感じたという。
チーフス戦の試合週は天候にも恵まれず、遠征メンバーが合流した火曜日(3月20日)は、悪天候により午後の練習が中止に。翌21日は、関東の広い範囲で積雪があった。
LO姫野和樹は試合後、率直にこう打ち明けていた。
「準備期間が少しなかったとは思います。時間がありませんでした。南アから帰ってきて、南アでやってきたことをチームに落とし込んだりとか――。(チーフス戦へ向けて)今週やることもやらなきゃいけないですし。そういったところで準備不足だったのかなと思います」
もちろん準備不足だけが敗因ではないことは、選手自身が骨身で感じている。
LO姫野はチーフスメンバーの能力について「オフ・ザ・ボールのところでもずる賢いですし、フィジカルもありますし、フォワードもパスが多彩」と実感を語った。
HO堀江翔太は、成功率75%だったラインアウトについて「全員が能力を向上したほうがいいと思います」と話した。
やるべきことはまだまだある。
午後5時すぎ、夕闇の迫る秩父宮の正面広場エリア。選手の出待ちをするファンがずらりと並んでいた。この日NO8で先発したヴィリー・ブリッツ共同主将らが、柵越しに黙々と握手、サインに応じている。
それがこの日見た最後の正面広場エリアの光景だった。
試合終了から実に約2時間が経っていた。
(文/多羅正崇)