終始押し気味だったアイルランド。写真は前半23分、CJスタンダーのトライ。
(写真/Getty Images)
小雪がパラついていた。
マイナス1度。寒空のロンドンで行われたシックスネーションズ2018の大勝負は、アイルランドがイングランドを24−15で下し、グランドスラム(全勝優勝)を達成した。
また、この試合のあとに行われたウエールズ×フランスの結果(ウエールズが14−13で勝利し、フランスは7点差以下の敗戦時に得られるボーナスポイントを獲得)、イングランドは5位で大会を終えた。
序盤は、両チームともにキックを使って陣地を稼ぐ堅い展開だった。
イングランドはマコ・ヴニポラ(PR)、ジェームス・ハスケル(FL)などの重量級ボールキャリアーを使ってラックサイドを攻めるも、アイルランドの堅いディフェンスに激しくカチ上げられた。
6分には、イングランド陣22メートルライン付近から、アイルランドのジョニー・セクストン(SO)が、ゴールライン上にハイパントを蹴る。イングランドFBのアンソニー・ワトソンが処理にもたついた。インゴールに転がるボールを、ギャリー・リングローズ(CTB)が抑えて先制トライ。セクストンのゴールも決まり、アイルランドが7-0とした。
イングランドはアイルランド陣内で反則を誘うも、PG可能な場面でもラインアウトを選択し、トライを狙いにいった。しかし決定機を作ることができない。一方でアイルランドは23分、中盤から複数のダミーランナーを使い、ディフェンスをかく乱した。バンディー・アキ(CTB)が見事なラインブレーク。サポートしてボールを受けたCJ・スタンダー(NO8)がタックラーを引きずりながらトライ、ゴールが決まり、0−14とリードを広げた。
無得点のままだったイングランドは、前半29分にチャンスをつかんだ。自陣ゴール前でモールを意図的に崩す反則を犯したアイルランドは、ピーター・オマホニー(FL)がイエローカードを受けたからだ。
イングランドは、ここでもPGを狙わなかった。その後の反則でも再三に渡りラインアウトを選択し、トライを狙いにいく。アイルランドの堅いディフェンスに阻まれるも、同じ選択をくり返した。
33分だった。ようやくオーウェン・ファレル(SO)のディフェンスライン裏へのゴロパントが奏功した。そのボールをエリオット・デイリー(WTB)が抑えてトライを挙げる。5-14とした(ファレルのゴールキックは外れた)。
しかしアイルランドの勢いは衰えなかった。
前半終了前、コナー・マレー(SH)からのロングパスを受けたジェイコブ・ストックデール(WTB)が、途中出場のイングランドFBマイク・ブラウンの頭を超えるチップキックをインゴールで押さえる。ゴールも決まり5−21とリードを広げた。
後半に入ってからも流れは変わらなかった。
ペースをつかめないイングランドは、課題とされていたタックルエリアでの反則を繰り返す。58分にはアイルランドがPGを追加。24-5とリードを広げた。
ホームの8万2000観衆を前にこのままでは終われないイングランドは、65分、外への展開からブラウンが2人のディフェンスを引き付ける。デイリーに絶妙のオフロードパスを渡し、トライ。10-24とした。
イングランドは終盤も必死の反撃を見せた。終了直前にジョニー・メイ(WTB)のトライで15−24。しかし、この日のすべてのキックを外す乱調だったファレルのゴールはここでも決まらず、そのままノーサイド。アウェーのトゥイッケナムで勝利を収めたアイルランドは、グランドスラム達成の喜びを爆発させた。
試合後の会見でエディー・ジョーンズ監督は、「こうした痛い連敗も、大きな目的を達成するためのプロセスのうち。痛い経験から、チームの弱み、改善すべき点というものが浮きぼりになる」と、悔しさを露わにしながらも前を向いた。
HOディラン・ハートリー主将は、「もちろん負けたのは悔しいが、ここで勝っていたとしても、夏の南アフリカ遠征までにチームは大きな改善を遂げなければならない。とにかくチームとして改善していくだけだ」とコメントを残した。
対するアイルランドのジョー・シュミット監督は、満足な表情を見せた。
「今大会では、とにかくチーム内のバランスが非常に良く取れていた。ロッカールームでは、怪我人もシャンパンを浴びて大喜びしている」
主将のHOローリー・ベストも、「今日の試合は今大会で最も素晴らしいディフェンスを見せた。アイルランド代表の緑のジャージを着てこうした偉業を達成するのは、選手たち全員の子どもの頃からの夢」と笑った。
今大会前節の結果から、イングランドを抜いて世界2位にランクを上げたアイルランド。2009年以来史上3度目のグランドスラムを達成し、欧州王座の座に輝いた。
この勢いを夏の豪州との3連戦まで持続し、北半球チームの実力を世界に見せ付けることができるか。今後も注目だ。
(文/竹鼻智)