浪速高校ラグビー部。最後列一番右が鳥飼賢監督。前列左から5人目が中村将大主将。
校内にある「学院神社」前で。
30歳の青年監督は力を込める。
「ここを南の拠点にしたいんです」
鳥飼賢(まさる)は大阪の私学・浪速高校を率い、この4月で2年目に入る。
1〜2月にあった第69回近畿大会府予選(新人戦)では4ブロックある中のAで決勝進出。5度の全国制覇を誇る東海大仰星に0−74と完敗も、その存在をアピールする。
「仰星とは取り組み方が違いました。人づてに聞いた話ですが、ウチのレベルでもビデオを取り寄せ、分析をされていたそうです」
敗戦から学ぶ。東海大仰星には毎週のように多くの高校が集まる。勝負のみならず、チームの在り方も鳥飼の理想に近い。
大阪は市内を含めて高校ラグビーが盛んな地域だが、南部から花園に出たのは1校のみ。府立の阪南が1983、1984年(第63、64回全国大会)に連続出場した。
位置づけで言えば常翔学園は北、東海大仰星、大阪桐蔭、大阪朝高は東になる。
浪速は阪南から西へ約2キロのところにある。堺との境界を流れる大和川に近い。鉄道3線、地下鉄、JR、南海の各駅、あびこ、杉本町、我孫子前からは徒歩圏内。至便である。
旧国名が和泉と呼ばれる南大阪には堺、岬などのラグビースクールがあり、市南部の中学にもラグビー部は多い。ただ、有望選手はこの学校を飛び越えて、他校に流れる。
体育教員でもある鳥飼は従来の動きを変えたい。そのためにはチーム強化である。
現在の部員数は35(新3年=17、新2年=16、女子マネ=2)。4月には20人弱の新入生入部が見込まれている。
主将のSO中村将大(しょうた)は笑う。
「新人戦で決勝に行けて、自信にはなりました。ウチは上下関係はあるけれど、みんな仲がいいです。練習は充実しています」
春休み中は午前と午後の2部練習。2時間半ほどボールを使い、1時間半ほどウエイトトレーニングをする。昼食はスーパーラグビーの映像を見ながら摂る。鳥飼は話す。
「ウチは初心者を歓迎します。彼らは戦力になってくれる。去年もレギュラーのLOやFLやWTBは高校から始めた子たちでした」
基本を丁寧に教える。ハンドダミーにしっかりと半身で当たらせる練習などを繰り返す。そして戦力値を上げていく。
鳥飼はタテに強いCTBだった。2005年の高校日本代表。啓光学園(現常翔啓光)で4連覇を経験するも、3年時の第85回大会では、8強で大阪工大高(現常翔学園)に12−29で敗れる。記虎敏和(現三重PEARLS監督)は教え子を評する。
「まじめで真摯に取り組む子やった。ただ、硬い部分があった。これって決めたら一本道。でも、指導者にとってはそれが大事。一つのことを突き詰めていかな勝てへんからね」
記虎は、今では当たり前になったダブルタックルや、味方からボールをもぎ取り、そこにランナーが即入ってくる「リップ・ガット」にこだわり、戦後最長のV記録を作った。
鳥飼は記虎が監督をつとめた龍谷大から日本新薬に入社。社会人経験を3年積み、浪速に赴任する。大学在学中に取った教員免許は2つ。地歴など社会科も持つ。保健・体育は京都教育大で科目履修した。目標をクリアする意志の強さを持ち合わせる。
6歳下の弟・誠もCTB。東海大仰星、関西学院大を経て、中国電力でプレーしている。
このラグビー部には歴史がある。
前監督で、現在は教頭職の飯田智文は言う。
「できて70年くらいはたっています」
創部年は、はっきりしないが、1974年の第53回全国大会府予選では唯一の決勝に進出。大阪工大高に6−30で敗れた。
その時代のOBには、大阪経済大から近鉄に入り、複数のFWポジションを経験し、日本代表キャップ1を得た吉野一仁がいる。トップリーガーではFB高平拓弥。東海大からリコーに入り、5年目を終えている。
その学校創立は1923年(大正12)。今年96年目になる。神道を教育の軸に据え、文武両道を目指している。この3月には現役の東京大合格者を出した。
クラブ活動に対しては、ラグビー部も使うフルサイズの人工芝グラウンドを大阪・美原町に建設中だ。70メートル四方しかない校内グラウンドをサッカー、アメリカンフットボール、併設の中学で回している状況を考えれば、条件は整ってきている。
4月に始まる第73回大阪府総合体育大会(春季大会)では、近畿大会予選の上位16校が集まる?ゾーンに入った。
大阪朝高、上宮、母校・常翔啓光と4校でリーグ戦をして、続く順位決定戦に挑む。
鳥飼はターゲットを設定する。
「Bシードの3つに入れるようにチャレンジしたいですね」
半年先に始まる全国大会予選の組み合わせは、この総合体育大会の結果で決まる。
3位までがA、6位までがB、12位までがCシードになる。上位6チームに入れば、3つある「組み合わせやぐら」の両端に来るため、決勝進出の可能性が高くなる。
近畿、それに続く全国選抜と未だ到達せぬ大会を横目にしながら、日々の鍛錬に力を注ぐ。狙いは一つ。紺×水×白色の3色段柄ジャージーを全国区にすることだ。
(文:鎮 勝也)