昨季、東海大の主将を務めた野口竜司は2018年3月3日、国際リーグであるスーパーラグビーでの初陣を飾った。
2016年に日本代表デビューを飾った野口は、12キャップ(国際真剣勝負への出場数)を持つ22歳。身長177センチ、体重86キロと大柄ではないが、人垣へ突っ込む際のボディバランスや相手の死角へタイミングよく駆け込める判断力、危険地帯へ先回りする嗅覚を持ち味とする。
この春は2016年から参戦する日本のサンウルブズに初めて追加招集され、東京・秩父宮ラグビー場での第3節に前半9分から途中出場を果たす。初めてのスーパーラグビーだ。務めたのはタッチライン際のWTBで、本職にあたるグラウンド最後尾のFBではなかった。しかし、随所に持ち味を発揮した。
10−30と点差を広げられていた後半17分頃。自陣ゴール前左で相手ボールラインアウトというピンチを迎える。
対するレベルズは列の後方で球を捕ってモールを作り、じりじりと前進する。塊の陰では、オーストラリア代表88キャップのSH、ウィル・ゲニアが次の攻撃に移らんとしていた。
レベルズ勢が追加点を狙うこの場面、流れを断ったのは野口だった。
「あの場面は、相手のSHへ(周辺にいたサンウルブズの味方が)プレッシャーをかけていた。SHがそのままキャリー(突進)するか、(長いパスを)飛ばすかしかできなかったと思う」
ピンチの場面で冷静さを保ち、ゴールポスト付近から一気に飛び出す。ゲニアが長いパスを放った先へ駆け込み、インターセプトを決めたのだ。
「そこでたまたま自分がアップしたところにボールが(来た)」という野口は、そのまま走る。続けて前方へ蹴り出した球は足の速い相手に確保されたが、絶体絶命のピンチは脱することができた。
もっとも本人の口をつくのは、反省点ばかりだった。
試合後の取材エリアでは、まず「カバーの部分ではまだまだ判断が遅い。そこは修正点です」と、不慣れな立ち位置でのキック処理に手を焼いていたと話す。
さらに、10−18と逆転圏内にいた後半8分頃の防御については、自らの判断をただただ悔やんでいた。
自陣中盤右中間での相手ボールスクラムから、自身の立っていたサイドに球が回る。レベルズのインサイドCTBであるリース・ホッジはやや右寄りの位置でボールをもらい、サンウルブズの飛び出す防御をひきつけながら左横のSO、ジャック・デブレツェニへパス。デブレツェニは目の前のスペースを駆け、右側で待つWTBのジャック・マドックスに大きく振る。間もなくスコアは10−25と広がってしまった。
ここで相手の対面にトライされた格好の野口は、強烈なタックルをいなされたアウトサイドCTBのウィリアム・トゥポウとともに極端に前がかりな位置へ上がっていた。相手との間合いを詰めてプレッシャーをかけるためだったが、デブレツェニの投げた楕円球はその背後を通過。痛恨のトライが決まる場所へは、必死に駆け戻るしかできなかった。
この一連の動きについてだろう。野口は記者団を前に、こんな言葉を残した。
「ノミネート(誰が誰をマークするかの確認)がずれていたところもあって」
「(チームの判断として)もう1個、(向かって右側に)詰めるのかと思ったのですが、あそこは詰めても外に(マドックスらが)余っていた」
ここでは、飛び出す際にトゥポウやインサイドCTBの中村亮土らに声をかけておくべきだと思ったようだ。自分がマドックスのチェックに集中してもいいように、守備網を整えながら前に出るべきだとした。
野口の身上は、「(チームのすべきプレーを)理解したうえで、理解したことをプレーに出せれば」である。競技理解への意欲に定評があり、そのためプレーを分析する言葉は緻密だ。
初のスーパーラグビーの舞台で肥やしを得た野口は、現在、チームの南アフリカ遠征に帯同中だ。現地時間3月10日の第4節(対シャークス/ダーバン・キングスパークスタジアム/●22−50)ではベンチから外れたが、続く同17日の第5節(対ライオンズ/ジョハネスバーグ・エミレーツエアラインパークスタジアム)での出番はあるだろうか。
(文:向 風見也)