■自陣からの速攻、バッキングアップ、コンバージョンへのチャージ…
「小さなことを大事にしよう」がモットーです、と大学時代の彼に聞いた覚えがある。
今季からサンウルブズの共同キャプテンに就任した流大。「大きく豊かに育て」と名付けられたユタカ・ナガレは、今も変わることなく小さなことを大事にして、実質的に初参戦となるスーパーラグビーに確かな成長の跡を刻んでいる。
土曜日のサンウルブズは苦しかった。好調のレベルズ相手にバックス3人が相次いで負傷。前半19分には、バックローの徳永祥尭がWTBに入るスクランブル体制を取らざるを得なかった。
ここから、攻めのテンポを握る司令塔はあえてチームにムチを入れた。
29分、自陣22メートル付近でウィリアム・トゥポウがジャッカル。相手反則を誘発した。タッチキックで敵陣へ、とちょっと一息つきたくなる場面だが、流は迷いなく速攻に転じた。タップキックから前へ。ゲームスピードを、一段上げてみせた。
「苦しい時間だった。だからこそ、モメンタム(勢い)を上げようと思った」。情勢が芳しくない自軍のセットプレーを避ける狙いもあった。さらに、たとえマイボールを獲得したとしても、バックスの主軸が抜けて攻撃の練度は高くない。ならば、混沌とした「アンストラクチャー」から勝機を見いだそうという計算も働いていた。
事実、この後の数分はゲームがなかなか切れず、互いにボールを奪取しあう打ち合いの様相となった。
34分、ターンオーバーしたレベルズの右への展開攻撃を、トゥポウがインターセプトして独走トライに漕ぎ着けた。劣勢の中、前半を同点で折り返せた要因の一つに、キャプテンのクリアな思考と躍動感は欠かせなかった。
後半も、流の戦う姿勢は目に焼き付いた。
連携不足もあって、あっけなく防御を突破されるサンウルブズの淡泊さの中で、最後まで諦めることなく相手を追いかける流の粘り強さは際だって映った。47分、レベルズのトライを右隅にとどめたのは、彼のバッキングアップがあったから。流は、相手コンバージョンでも166センチの体を伸ばしてプレッシャーをかけ続けていた。
「後半は一気に突き放されているように思った。だけど点差を見たら、まだまだ追いつくことができる。少しでも2点を取らせないようにしたい。ゴールキックへのプレッシャーもその思いからです」
試合後、よどみなくプレーの意図を話す流を見て、帝京やサントリーでの連覇を中心で支え、彼のラグビーへの思いは洗練され、勝利への渇望がより強くなっていることを実感した。
世界は甘くない。これからもサンウルブズの苦闘は続くだろう。
それでも、小さな努力を怠らないこの人がいれば、きっとチームは前を向ける。
【筆者プロフィール】
野村周平(のむら・しゅうへい)
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップ2011年大会、2015年大会、そして2016年リオ・オリンピックなどを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。