日本ラグビー界のエースのトライシーンを動画共有サイトでチェックする石川貴大は、明大2年目のシーズンへ決意を明かす。
「同じポジションにすごくいい選手がいっぱいいて…。シーズン途中までは試合に出られていたのですけど、出られなくなってすごく悔しい思いをしました」
身長181センチ、体重86キロ。堂々たる体格とランニングスキルを長所とし、兵庫・報徳学園高時代から有望なWTBと遇されてきた。大学ラグビーシーンでも、チームが加盟する関東大学対抗戦Aで2試合に出て2トライをマークした。
しかし、チームが19季ぶりの大学選手権決勝進出を決めた頃には、控えに回された。攻めては仕留め役、守っては相手のキックとランへの対処にと動き回るWTBのポジションには、実績ある上級生の高橋汰地、山村知也が並んでいた。来る新シーズンも高橋と山村は部に残るが、ルーキーは言い切る。
「今年は絶対に、レギュラーを守る気持ちで練習と試合をやっていきます。今年は、去年あまり出せなかった自分の強みを出していきます。僕はボールキャリーとして(タックラーに捕まっても)立っておくこと、ラインブレイクが強みだと思っている。ボールを持ったら、パスをするよりも走る。そうしてチームに貢献したいです」
2月11日、本拠地の東京・八幡山グラウンドでシドニー大(オーストラリア)と国際交流試合をおこなった。
オフ明けから当日までの約1週間、ラグビーのトレーニングにはさほど時間を割いてこなかった明大は、前半を19−21と競り合うもメンバーを大きく入れ替えた後半は19−35と劣勢だった。最終スコアは38−56。来日間もなかったシドニー大を前に、最上級生を欠いた明大は貴重な経験を積んだか。右WTBとして約60分プレーした石川は、こう振り返る。
「オフ明けでそこまでラグビーを詰め込んでやっていなくて、緊張はしていたのですけど、それなりにはできたと思いました」
自身のプレーについては「(間合いを)詰めてくる相手のディフェンスにはまって、ボールをもらう機会は少なかった」と満足していないが、レギュラー死守への試みも披露できた。
勢いに乗っていた前半は、持ち場の右タッチライン際以外の場所でもパスをもらっていたのだ。左端に回り込んで防御をかいくぐったり、接点の脇へ突っ込んで球を呼び込んだり。
「お前は、もっとボールを触れ」
就任1年目の田中澄憲ヘッドコーチから、ずっとこう説かれていた。同じ高校出身でもある次期監督の言葉を、胸に刻んでいたのだ。
同じ場所に留まっていてもボールをもらえないのなら、自ら動いてボールをもらいに行けばいい。いざボールをもらった際の推進力には自信があるのだから、その回数を増やせばトライやチャンスメイクの数もおのずと増やせる…。
そんなイメージもあってか、石川は、目指すスタイルとそれに必要な資質をこう話した。
「積極的にボールに絡んでいきたい。いろいろなところでボールをもらえたらいいな、と思います。そのためにはフィジカル、フィットネス、どこでボールをもらうかについてのうまいコミュニケーションが重要になってきます」
モデルチェンジの際に参考にした選手はいたかと聞かれると、石川は「特に、参考にしているということはないです」と話す。
もっともここ数年の日本のWTB史を振り返れば、あえて定位置を離れる動きで出世したWTBを見つけることができる。パナソニックやサンウルブズに在籍する山田章仁だ。
2012年、当時ノンキャップだった山田は「ボールタッチを増やす」と目標を定め、もともと持っていた華美なランとは異なる価値を獲得。そのシーズンの国内トップリーグでトライ王に輝き、2014年以降は日本代表に定着している。
その話題に触れると、石川は「あぁ…」とうなずく。
「たまに、山田選手の動画は見たりします。そういうことから、ちょっと意識していた部分もあるかもしれないです」
こんな誘導尋問にも似た一連の会話で「山田を手本に…」とまとめられるほど、人の気持ちは単純ではない。ただ確かなことは、普段は穏やかな石川がグラウンドではよりアグレッシブになりそう、ということだ。
(文:向 風見也)