昨年5月の太陽生命セブンズ東京大会でトライ王と得点王の2冠に輝いた。
(写真提供:石見智翠館高校女子ラグビー部)
原わか花。
名前は「わかば」と読みます。
「わ」=若葉のように元気よく、
「か」=可愛い心を持って、
「花」=花を咲かせる人になる。
両親の淳一さんと麻緒さんは、幸せになる字画を考えた上で、3文字目にあえて女の子らしい「花」をあてました。
その願い通り、花は大輪になりそうです。
石見智翠館の3年生は昨年、高校生ながら女子ラグビーの7人制日本代表(愛称:サクラセブンズ)に選ばれました。
この4月から、AO入試で合格した慶應義塾大学に通います。
日本海の青、中国山地の緑が近くにある学校での3年間は声が弾みます。
「できるなら、もう1回、高校生活をやりたいです。すっごく楽しかった。夏は海に入って、冬は寒いから暖かい場所を探すんです。学校の近くコンビニでおでんやカフェでパンケーキを食べ、友達と話すのが最高でした」
70人が暮らす女子専用の白梅寮の寮長をつとめたわか花さん。母校を愛しています。
生まれ育ったのは新潟市内。バレーボールをしていましたが、新津第二中学校の2年冬、ラグビーのとりこになりました。大学選手権の決勝をテレビで見たのです。
「なぜだか分からないけど、ピンときました。やりたい、と思いました」
帝京の5連覇目(第50回大会、2013年度)。早稲田を41−34で下した試合でした。
楕円球へのひとめ惚れは、父から受け継いだ血のせいだったかもしれません。
淳一さんは新潟工のラグビー部OBです。第73回全国大会(1993年度)では主将としてチームを率いました。1回戦では名護(沖縄)を32−3で破ります。ポジションはわか花さんと同じWTBでした。
やるなら強いところで、とその日にネット検索。ヒットしたのは石見智翠館でした。
わか花さんが中2の2013年度から高校女子のメインとなっている春の全国選抜セブンズで4連覇(2〜5回大会)を達成します。
「すぐに『興味があります』とメールしたら、すぐに返事をいただけました」
女子ラグビー部監督で数学を教える磯谷竜也先生は質問に丁寧に答えました。
最初の校内見学は両親と車で行きました。北陸道、名神、中国道を使い、学校のある江津(ごうつ)市に着きます。
「14時間くらいかかったと思います。父と母は交替で運転をしていました。着いたら父は『この環境なら3年間、ラグビーと勉強に打ち込めるな』と賛成してくれました」
淳一さんは距離の遠さよりも、娘の成長を一番に考えました。
男子日本代表の稲垣啓太さんも背中を押してくれました。パナソニック所属のPRは、中学の先輩であり、淳一さんの高校の後輩でもあります。友達が稲垣さんと親戚関係のため、中3の冬に会えました。
激励の言葉をかけてもらいます。
「大変だと思うけど、貴重な経験だから精一杯がんばってね。応援しているから」
わか花さんは涙をこぼします。
「うれしくて、感動しました」
今でもTwitterなどでつながっています。
みんなの期待を背に、父譲りの快速に磨きをかけました。努力は形になります。
昨年5月の太陽生命セブンズの東京大会では10トライを挙げ、大会トライ王、得点王の2冠に輝きました。
活躍が認められ、7人制の日本代表に初めて召集されます。9、10月のアジアシリーズでは韓国とスリランカに遠征しました。
学業も怠りなし。磯谷先生は言います。
「受験のため提出する志望書を8月の菅平の合宿中に一緒に考えました。彼女は数日間、あまり寝ていないはずです。練習だけでもしんどかったのに弱音をはきませんでした」
女子ラグビー部からは、3つ上の青木蘭さん、1つ上の佐藤優奈さんに次ぐ3人目の慶應進学者となりました。
学部は先輩2人と同じ総合政策(湘南藤沢キャンパス)。大学ではラグビーを国別に比較研究してみたい考えがあります。
「ニュージーランドの女子の環境を調べたりすることで、日本の女子を高められるお手伝いになればいいな、と思っています」
朗報に父方の祖父・芳己さんは大喜び。
「入学金とか任せておけ」
実はおじいちゃんには寮生活もラグビーをしていることも内緒にしていました。
69歳の今でも造園業をしながら、原家を守る芳己さんにとって、長男夫婦が生んでくれた女孫は手元で大切にしたかったのです。
「だから、親戚や近所の人たちにお願いして、私は地元でバレーをしていることにしました」
テレビでわか花さんの特集がある時は、母方のおじいちゃんに家に行ってもらい、世間話をして、注意をそらさせました。涙ぐましい周囲の協力のお蔭で露見しませんでした。
「おじいちゃんは原家の人間が東京六大学に受かったことがうれしかったようです」
隠ぺいは不問に付されました。
ラグビーは佐藤さんと同じ東京フェニックスでプレーする予定です。
「2020年の東京オリンピックを目指します」
目標はオリンピアンになること。
新潟から島根、そして神奈川へ。
これまでの経験と学びを携えて、わか花さんは新しい環境、上級学校、そしてラグビーにチャレンジを続けます。
(文:鎮 勝也)
女子ラグビー7人制日本代表にも選ばれた。今春、石見智翠館高校を卒業して、
慶應義塾大学に入学する。(写真提供:石見智翠館高校女子ラグビー部)