佐々木隆道さん(左)が君島良夫さんを誘い韓国でのコーチングが実現した
(写真提供:現代グロービス)
2018年、トップリーグ昇格を1月20日に決めた日野自動車レッドドルフィンズ。入替戦(NTTドコモレッドハリケーンズを20-17で下した)でゲームキャプテンとしてチームを鼓舞した闘将、FL佐々木隆道さんと、2016年シーズンまで日野に在籍したSO君島良夫さん(ジャパンエリートキッキング代表)のふたりが、1月22日から26日まで5日間、韓国でコーチングをおこなった。
対象は社会人創部3年目、唯一プロチームの現代グロービスだ。現代は日本チームに積極的にコーチングや分析方法などで教えを求めている。昨年9月はコーチ、スタッフが日野で分析方法を学んだ。今回は昨年12月に佐々木さんへ年明け訪韓を依頼した。ふたりは12月に食事した際に佐々木さんが「韓国へコーチングに行くけどBK(コーチング)はどう?」と君島さんを誘った。同じ学年、高校日本代表以来の長い付き合いだが、一緒にプレーしたのは2016年の1年だけだった。2017年からプロのキッキングコーチとして指導する君島さんは「隆道と一緒にできるチャンス。キックだけでなくBKのコーチングにも学べる」と引き受けた。佐々木さんはトップリーグ昇格から2日後の強行日程。「自分のこと(春以降のコンディション作り)を考えたら後回しにできなかった。めっちゃしんどかったけど」。
現代は若手韓国代表や日本チームでプレーした帰国組が多数所属、ホームグラウンドも仁川市にあるアジア大会使用スタジアムと恵まれた環境にある。冬季の屋外は零下になるため人工芝の室内練習場(市運営)を使用。FWを佐々木さん、BKを君島さんが分担した。
チームからは「練習中、試合中のコミュニケーションの取り方などを教えて欲しい」と要請されていた。しかし佐々木さんはその前に選手たちの姿勢にがっくりした。「練習をやらされている雰囲気。自分で取り組んでいくことが無い」。1チームの選手数が25〜30人程度の韓国社会人では、代表クラスはじめチームに入れば、ポジション争いの競争は皆無だ。「チームに入ることが最終目的となっている感じがした」(佐々木さん)。
ボール争奪戦のブレイクダウン。佐々木さんらは「入り方、奪い方、見極め、オーバーの方法」を集中的に教えた。しかしブレイクダウンに「試合では100%出してやっていると思うけど70%程度の練習」(君島さん)だった。選手たちには「練習から100%で取り組むように心のありようを話した」(佐々木さん)。そのために良い悪いプレーの線引きを示した。ミスすると腕立て伏せやランニングなどの軽い罰ゲームも実施した。
もっともこだわったコミュニケ―ションは「選手たちに自分たちで考えることを求めた。リーダー陣も自分たちで話し合ってもらった」(佐々木さん)。ラグビーへのモチベーションをもたせるために「なぜ今ラグビーをしているのか? 最終目標は?」と選手個人に考えさせた。
わずか5日間だったが選手は日々に取り組む姿勢を変えていった。サントリーサンゴリアスに2015年加入したPR朴鐘烈(パク・チョンリョル)。当時、佐々木さんとは同僚も1年間で韓国へ戻り、現代へ。「最初は韓国の雰囲気で練習していた。僕たちのやり方は分かっている。徐々にサポートしてくれるようになりました」(佐々木さん)。
力になったのが通訳として3日目から参加した梁永勲(ヤン・ヨンフン)韓国7人制・15人制代表コーチ。2016年シーズン、10年過ごしたホンダヒートで引退し帰国、韓国代表を支える。「梁さんが選手に話し、引き締めてくれたら一瞬で変わった」(佐々木さん)。梁コーチは「練習中でも常にコミュニケーションを取れば良くなる。自分も隆道さん、良夫さんのコーチングを勉強させてもらいました」といつもの穏やかな口ぶりだ。
今季、現代の主将を任されたLO李勇昇(イ・ヨンスン)は2015年、日野に加入。君島さんと1年間、過ごした。「ヨンスンは日野に在籍中、ケガでプレーできなかった。ボールキャリーなど強かった。当時はおとなしかったが、主将になりチームを変えたい気持ちもある。声を出しコミュニケーションを取っていた」(君島さん)。元同僚の成長を感じた。
BKを見た君島さんは、キックの練習をおこなった。「いちからボールの持ち方、足の運び方、蹴り方」を繰り返した。現在、世界規模では、キッキングコーチに任せることが浸透してきた。韓国ではまだだ。「日本でも教えてもらうことが少ない。韓国の選手たちも初めての経験だったと思う。SOやFBなど良いキックを見せてくれる選手がいた」という。
コミュニケーションでは「外にいる選手が声を出せばトライになるのに声を出していない。BKが相手のディフェンスをどうやって惑わすか。ボールを持たない人の動き、おとりの選手とコミュニケーションがない。遠慮しているのかな」。
一方、コーチという立場で振り返ると反省をする。「初日、2日目といい練習ができなかったのは自分たちの責任」(君島さん)。ふたりは毎晩、その日のレビューと翌日の練習方法を話し合ったという。「初めてコーチという立場で外国のチームを見て濃密な時間でした」と君島さん。ふたりにとって今後のラグビー人生にとり貴重な経験となった。とはいえ韓国なので練習後、現代スタッフと三晩は韓国料理宴会も楽しんだ。
現代はふたりに「練習に集中することが試合での集中力につながることを示してもらえた。主将とリーダーによる問題解決能力向上ができた」と感謝する。
2018年、韓国ラグビー社会人は3月30日に「コリアンリーグ1次大会(7人制)」で開幕する。4月6日から「香港セブンズ」に代表が招待されている。梁コーチによると「7人制は2月に招集して準備を始める」。現代からも代表が選ばれる可能性は高い。
(文:見明亨徳)
現代グロービスの選手たち。コーチングを受け大きな変化を見せた
(写真提供:現代グロービス)