ラグビーリパブリック

近鉄ライナーズ命 週刊ひがしおおさか 前田寛文代表

2018.01.27
近鉄ライナーズの話題が満載の地域情報サイト『週刊ひがしおおさか』の前田寛文代表。
右側に無造作にかかった青のライナーズバッグが、熱意を示しています。
 試合直後の記者会見場前、色黒で人好きのする前田寛文は涙をためていた。
 1月13日、近鉄ライナーズはNTTドコモに13−21で敗れた。トップリーグからトップチャレンジへの自動降格が決まる。
 慰めの言葉にもただうなずくのみ。近鉄記事を満載させる地域情報サイト『週刊ひがしおおさか』(週ひが)の代表は無言だった。
 悲嘆から半月が過ぎた。
 筋金入りの近鉄ファンは心境を語る。
「まず、坪井さんがかわいそうです」
 監督の坪井章に好意を持つ。
「広報の時からよくしてもらいました。普通は僕たちノラは相手にしないんやけどね」
 ノラ=野良犬。サイトを立ち上げたのは2007年。認知がない中で坪井は情報を渡す。その優しさは11年たっても胸に残る。
「それから、若い選手たち、田淵君や野口君らはこんなつらい目、今までしたことないやろなあ、って思いました。勝ち負けはあるけど、降格っていうのはないやろなあ、って」
 入社3年目のFL田淵慎理、同2年目のSO野口大輔ら若手を思いやる。
 近鉄が2部リーグで戦ったのは10シーズン前。サイト立ち上げと同じ時期だった。
 前田は、チーム全体の危機感のなさを練習や試合で受ける。
「ドコモがコーラに負けて、多分、初めて焦ったんですよね。やばい、って。コーラには勝てると思っていたから」
 1月6日、13戦全敗だったコカ・コーラは6勝のドコモを19−14で破る。自動降格がかかった相手はシーズン中、21−31で敗北したドコモ。予期せぬ展開になった。
「どうしよう、どうしよう、って焦って時間だけが経ってしまった感じでした」
 選手との受け答えで思うことがある。
「試合の敗因を『自分たちのミスで負けた』って言うのが多い。じゃあ、『どうしたらミスを減らせるのか』って聞いたら何も話さない。でも、負けたっていうことは相手に強みがあったっていうことでしょう? そこを具体的に分析して振り返ってほしい。そんな話ができるのは森田君や豊田君くらい。選手1人1人がもっと厳しさをもってやっていかないと改善されないんじゃないですか」
 敗戦の本質をつかめているのは副将のCTB森田尚希や前主将のPR豊田大樹だけ。それが個々に広がり、練習に反映されねば、敗北は生きず、チームの成長はない。
 それでも、前田は近鉄を応援する。
「ただただ好きなんです。単純に楽しめる。文化とか小難しい話を抜きにしてね。ラグビーの応援席って、なんか現役時代の先輩後輩や仕事のつながりが続いている感じがするんです。おじぎして、腕組んで、しかめっつらで試合を見ているような。でも、ライナーズは違います。ラグビー歴なんて関係なく、普通の人がぽっと入って応援できる。プロ野球やサッカーなんかと一緒なんですよね」
 ちょんまげのころから「官の江戸。民の浪速」と呼ばれたように、大阪は官職にある縦ではなく、庶民の横のつながりが息づく。
 それが、近鉄の応援にも現れているのだろう。いつでもだれでも歓迎する。
 前田は東大阪で生まれ育った。下町で人情を知る。摂南大卒業後、プログラマーとして会社勤めやパソコン教室、さらには塾経営や講師をした後、サイトを立ち上げた。
「その核になるものがライナーズでした」
 ラグビー経験はわずかにある。社会人になってからクラブチームに誘われた。163センチ、100キロ超の体重。ポジションは予想にたがわぬPRだった。
 2012年に法人化。4年後にはラグビーフリーペーパー『DAEN』(だえん)を発行する。今年45歳の前田の愛嬌、腰の低さ、勤勉さが溶け合い、仕事は軌道に乗る。
「今の収入は大きく分けて3つ。関西協会ホームページの管理などのラグビー、東大阪市や外郭団体の仕事、あとはホームページ、ちらしやポスターを作ったりしています」
 スタッフは前田を含めて5人。事務所は母が生活している若江岩田の実家である。
「コスト削減ですね」
 近鉄記事の削減は考えていない。
「今まで以上に量を増やすつもり。選手の誕生日をSNSで発信したい。どうやったらモチベーションを上げていけるか考え中です」
 下部落ちすれば、新聞、テレビ、ラジオなど大手メディアの露出は減る。その分を前田はカバーしていくつもりだ。
 その上で選手やスタッフに提言する。
「ファンのことを考えんでいいから、自分たちのことにフォーカスしてやってほしい。ファンクラブの会員は全試合無料とか、手厚すぎて申し訳ない。そんなお金や労力があるんやったら、強化のほうに充てて下さい」
 昨年末、市側との忘年会では、秋に改修が終わる花園ラグビー場のこけら落としが話題になった。『日本代表』や『サンウルブス』が飛び出す中、酔っぱらって叫んだ。
「ここは東大阪やぞ! なんで、地元のライナーズちゃうねん! 向こうからクルセーダーズ呼んできて、やったらええやん!」
 壮大なプランをぶちあげた。
 そして敗戦…。
 市側の関係者に言われた。
「近鉄、落っちゃいましたねー。こけら落とし、難しいですねー」
 こういう気概に満ちあふれたサポーターがいることを、いったい何人の近鉄プレーヤーが本当に知っているのだろうか。
(文/鎮 勝也)
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