スクラム練習を見守る関大北陽の梶村真也監督
大阪の私学・北陽を代表する球技は野球とサッカーだった。
高校は2008年4月、『関西大学北陽』になった。トップ私大「関関同立」の関西大の併設校に変わる。男女共学になった学校では、ラグビーがその仲間入りを狙う。
野球部は春の選抜、夏の選手権合わせて甲子園に14回出場する。阪神やオリックスで監督をつとめた岡田彰布を輩出した。
サッカー部は冬の選手権や夏のインターハイなど全国大会出場34回。選手権初出場の52回大会(1973年度)では優勝している。
ラグビー部は2013年4月創部。この4月で6年目に入る。
歴史の浅いチームながら、すでに2回、花園予選の決勝に進んだ。
95回大会では常翔学園に12−49、昨秋の97回大会では全国優勝する東海大仰星に5−38でそれぞれ敗れた。
「裏全国大会」と称される今年1月のサニックスワールドユース予選会決勝では東海大相模に7−33。敗れるも存在感を示した。
監督は今年38歳になる梶村真也。褐色の顔、漆黒のひげ、輝く瞳からは冒険家のような情熱が立ち上る。
2012年4月に同校に保健・体育教員として赴任。創部と同時に監督になる。
「北陽時代にラグビー部はあったのですが、ずいぶんと昔に自然消滅していました。OB会活動もなかったようです。だから、2013年を高校の創部年にしています」
ラグビー部の立ち上げに力を注いだのは田中敦夫である。高校と併設の中学の校長を兼ねる。関西大ラグビー部OBでレフェリー経験もある。母校の大手前や東海大仰星で社会科教員をつとめた後、関大北陽に移る。
「当時、サッカー部には『グラウンドは俺らのもの』という考え方がありました」
強豪サッカー部にとって、グラウンドの全面使用は既得権益だった。野球部は隣の摂津市に専用球場を持っている。
田中は摩擦を少なくするため、長期計画を立てる。まず、2010年4月の中学開校と同時にラグビー部を作り、その1期生が上がる2013年、高校に創部させた。
人工芝化されたグラウンドは、今では中央ラインで二分され、ラグビー部にも使用権が認められる。今年57歳になる田中の粘り強い努力は、周囲に存在を認めさせる。
その流れの中、東海大仰星時代の教え子でもある梶村を初代監督として招いた。
梶村は高3時の79回大会(1999年度)でNO8として全国制覇を経験している。埼工大深谷(現正智深谷)を31−7で破った。これは同校が誇る5回の優勝の最初である。
当時の主将で左FLは湯浅大智だった。同級生は選手、コーチ、監督として東海大仰星のすべてのVに絡んでいる。梶村は話す。
「彼とは今でも家族ぐるみのつきあいもあり、へんなライバル意識はありません。でも、刺激にはなります。すごいなあ、と思います。勉強をさせてもらっている感じです」
梶村は東海大に進学後、ヤマハ発動機でプレーした。7年間、現役を続け引退。社業に専念し、2011年4月から、東大阪市の長栄中学校で体育講師をつとめた。
東海大仰星時代の恩師・土井崇司(現東海大相模総監督)は梶村を評する。
「高校時代から、愚直にまっすぐにイノシシのように進んで行くタイプ。でも、ヤマハでの仕事のあれやこれやの経験で周囲のことを考えながら突進するようになりました」
サラリーマンの経歴が梶村の指導に生きる。怒号は響き渡らず、諭しは静かだ。
「もちろん、体を張らないプレーをした時には怒りますよ。でも、普段は声を荒げません。水泳のコーチング書に『叫ぶよりささやけ』と書いてありました。僕もその方が生徒には効くのではないかと思っています」
部員たちは楽しげに練習をこなす。後輩は「君」で先輩を呼んだりもする。
「最低限の上下関係はわきまえろ、とは言うのですが…」
梶村は苦笑する。その柔らかさが、創部5年の短い期間で2回の府予選決勝進出を呼び込んだと言えなくもない。
日々の練習は授業の終わる午後4時過ぎから2時間半程度。日によってはウエイトトレやスクラムなどに特化する。
完全下校は午後8時。足りない部員は自主的にバーベルなどと格闘する。
主将のFL高本泰伍(新3年)は笑う。
「僕はアフターでフルスクワットが150キロくらい上げられるようになりました」
部員は新2、3年生合わせて69人(女子マネ7人を含む)。春にはすでに25人の入部が見込まれている。
人工芝グラウンドとともに、アクセスのよさも好評の1つだ。
学校は大阪の北、東淀川区にある。最寄り駅の阪急京都線・上新庄には準急が停車する。徒歩5分で学校着。京都、神戸はもちろん、相互乗り入れする地下鉄を使えば、南大阪も通学圏に入る。生野区から通う高本は話す。
「僕は地下鉄の今里駅から来ますが30〜40分ほどで着きます」
人気が高まる中、新チームは高本を中心に粘り強いディフェンスから、スペースにボールを動かすラグビーで勝負する。
1月21日には、第69回近畿大会府予選(新人戦)の初戦で高津(こうづ)と対戦。先発メンバー6人を外しながらも93−0と完封。府下有数の公立進学校を一蹴した。
梶村は今年の目標を話す。
「全国ベスト8です」
田中が捕捉する。
「大阪の代表になるには全国大会でベスト8の力がいります。そういう意味です」
見据えるのは、近畿大会、選抜大会、そして、冬の花園である。
その試金石となるのは、1月28日(日)の準決勝だ。摂津高グラウンド、午後2時30分キックオフで大阪朝高と戦う。
相手は全国大会出場9回、4強2回を誇る名門だ。CTBには新3年ながら高校日本代表候補である李承信(り・すんしん)がいる。
栄冠を勝ち得るには、まずこの難敵を突破しなければならない。
(文/鎮 勝也)