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日野自動車・村田毅、NTTドコモとの入替戦に「テンション、上がってます」

2018.01.19

11月25日、トップチャレンジリーグのHonda戦で激走する村田毅(撮影:松本かおり)

 日本代表を目指している。日本代表に相当する力をつけていれば、その時にどのチームに属していようが日本代表になれると信じている。
 2016年の春までに7キャップ(国際間の真剣勝負への出場数)を獲得した身長185センチ、体重105キロの村田毅は、日本最高峰トップリーグのNECを昨季限りで退団。日野自動車に移籍し、社員からプロに転向している。今季新設された下部のトップチャレンジリーグで、チームのトップリーグ昇格と自身の代表復帰を目指す。
 新天地には専用のクラブハウスやロッカールームがないため、東京・日野市内のグラウンド脇にある体育館の隅で着替えなどをおこなう。夕方から夜までの全体トレーニング後は、同じ場所でディナーを摂る。周りは、夕方まで社業に励むサラリーマンプレーヤーばかりだ。学生ラグビー界の星がトレーニングに集中するトップリーグのチームとは、環境面で大きく異なる。
 もっとも村田は前向きだ。自分の意志でここへやって来たからだろう。
「日野自動車は年々、強化しているチーム。(トップリーグに)上がった時に入るのと、自分が入ってから上がるのと、どちらがいいか。そう考えたら、入ってから上がった方が絶対にいい。モチベーションは、明確でした。それまでの自分がいかに恵まれていたところでやっていたかもわかりました。また、ここでは(年齢やキャリアなどで)上の方になるので、自分が成長すると同時に人に教えることも大事になっています。そのなかで、伝え方の面とかで成長している」
 日野自動車は下部グループ編成前のトップイーストで、2016年度までの過去5年の順位を9、7、4、4、2位と引き上げてきた。
 昨季は元サントリーで代表経験のある佐々木隆道と契約し、今季は村田の他に元神戸製鋼の田邊秀樹、パナソニックの主力だった林泰基らを招く。一線級を知るアスリートが、勤勉な社員選手の知見を広げる。
「この1年でタフになった。寝てからすぐに起き上がる意識、激しさ、システムの遂行力もよくなっている。判断力はまだまだ上げなくてはならないですが、軸のチームカルチャーができつつある」
 こう語るのは、新任の箕内拓郎FWコーチ。今年度NTTドコモから「いろいろなところで勉強をしたい」と移ってきた42歳だ。現役時代は以前の村田と同じNECなどでプレーし、日本代表主将としてワールドカップ2大会連続出場を果たしている。
 LOやFLに入る29歳の村田にも、頼もしさを感じている。
「彼はチームがやろうとしているリアクションスピードの速さを、実際にグラウンドで示せる。いくらコーチがリアクションを速くしろといっても、選手はまず本物(手本)を見ないとわからない部分がある。そんななか、彼が試合や練習での動きでいい刺激を与えてくれています」
 今季の日野自動車は、新設のトップチャレンジリーグの上位陣Aグループで4チーム中2位。トップリーグへの自動昇格こそ逃したが、1月20日、同リーグ下位チームとの入替戦に臨めることとなった。相手はNTTドコモに決まった。
 箕内の古巣でもあるNTTドコモは、2季ぶりの参戦となった今年度のトップリーグでレッドカンファレンスに参加した。8チーム中7位で戦い終え、自動降格回避を争う順位決定トーナメントに進出。最下位決定戦を制していまの立ち位置にいる。
 もっともリーグ全体を通しては、16チーム中8位タイの6勝を挙げている。確かな実力を証明しながら、組み合わせの妙で不運に見舞われている。
 しかもこの両者は昨季、各地域リーグの上位陣が競う当時のトップチャレンジ1で対戦している(1月3日/東京・秩父宮ラグビー場)。この時はNTTドコモがキックオフ早々から猛チャージ。日野自動車は12−68で屈していた。
 初のトップリーグ昇格を狙う日野自動車にとっては、今度のカードはチャレンジングにも映る。しかし箕内コーチは、「負けたくないし、勝てる自信が出てきている」。就任2季目となる相手のダヴィー・セロン ヘッドコーチ(HC)の求心力には「いいコーチ。学ぶことが多かった」と敬意を示すが、黙って引き下がるつもりはない。
「NTTドコモには知っている選手もいますが、僕はもう日野自動車のコーチ。戦術、戦略的なやりにくさは、むしろ向こうの方が感じているかも知れません。NTTドコモは前回の日野自動車戦の時、日野自動車戦用の準備をほとんどしていません。それでも開始20分で勝負を決めた。ただ、今年の日野自動車は、そうはならない」
 NTTドコモはセロンHC着任前の一昨季、ハンドレ・ポラードら当時の南アフリカ代表の主軸を抱えながらトップリーグから降格している。この頃指導者の道を歩み始めたばかりだった箕内コーチが、改めて言う。
「いまのNTTドコモと、降格した時のNTTドコモ。状況は似ています。主力の外国人に疲れがたまっている。今季は確かに6勝していますが、ここ何試合かは得点力も落ちている。ディフェンスも、勝っている時ほどの規律はない。そういう現実は彼らも受け止めているとは思いますが、僕らにもチャンスはある」
 村田もNTTドコモ戦に向け、「めちゃめちゃ、テンションが上がっています」と強調する。
「トップリーグで6勝したチームに勝つことの価値は、高い。あと、これは個人的なことですけど、相手は今季、NECにも勝っているんですよね(12月24日/秩父宮/第13節 ◯ 16−13)。前いたチームに勝った相手に、勝つ…。モチベーションを高く持っています」
 彼我の戦力差を鑑みたうえで、年間を通して鍛えたスクラム、ラインアウトで優位に立ちたいという。特にタッチライン際の空中戦となるラインアウトは、自分でリードしたい。敵陣22メートルエリアで相手ボールのラインアウトを増やせば、無形の圧力をかけられるかもしれない。
「時間をかけてやっているセットプレー(スクラム、ラインアウト)でリードしていきたい。特に空中戦は、しっかりとコントロールしていきたい。いかにいいエリアでラグビーができるかも鍵になると思います」
 昨年12月30日、FWだけでサントリーのグラウンドへ合同練習に出かけた。間もなくトップリーグ2連覇を達成する相手とスクラムで伍し、何より強豪の基準値を肌で感じられた。
「向こうは僕らとの練習の前に(サントリーだけで)全体練習をやっていて、それも見させてもらいました。(倒れた後の)起き上がり、細かいスキル、練習への態度といった全員の意識レベルが高かった。見てよかった。見学のためだけにBKも連れてくればよかったくらいです」
 東京・サントリー府中グラウンドで感じた「うちと日本一との差」を充実した口ぶりで語る村田は、大阪・ヤンマースタジアム長居での入替戦に背番号5をつけ先発する。
(文:向 風見也)
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