2018年1月7日、東京・秩父宮ラグビー場。21シーズンぶりの大学選手権制覇を狙う明大は、8連覇中の帝京大との決勝戦に挑んでいた。20−14と6点リードで迎えた後半19分頃、追加点を挙げるべく敵陣ゴール前へ進む。
2万人超のラグビーファンが集うスタンドからの「メイジ」コールを背に受け、FW陣がラックを連取する。
相手は隙あらば、攻守逆転を狙っている。明大が11個目の接点を作ると、ランナーの持つボールへ帝京大HOの堀越康介主将が飛びつく。
「危ない!」
慌ててその場から堀越を引きはがしたのは、明大の朝長駿だ。身長181センチ、体重98キロのNO8が、ブレイクダウン(ボール争奪局面)で踏ん張る。
しかし、その次の12個目の局面へ、帝京大のNO8である吉田杏が腕を差し込む。明大はその場から球を出せず、寝たままボールを離さない「ノット・リリース・ザ・ボール」の反則を取られてしまった。吉田はガッツポーズを作る。
自陣深い位置でのペナルティキックからは、タッチラインの外へ蹴り出すのが定石とされる。ところがこの折の帝京大は、明大陣営のわずかな隙を見逃さなかった。そのまま速攻を仕掛け、岡田優輝のトライなどで勝ち越す。
明大は約90メートルも陣地を挽回され、20−21と逆転を許したのである。チャンスを逃すとほぼ同時に失点したシーンを、朝長はこう振り返る。
「帝京大がペナルティキックからああすることは、チームでもわかっていたんですけど…。それでも、あそこではタッチに蹴るだろうと思って油断した。惜しいところですね」
王者と対峙したこの日は、チームは一時13点リードを奪うも徐々に後退。攻撃中のブレイクダウンでプレッシャーを受け、何度も攻撃権を失った。勝ち越される直前のワンシーンはその一例だった。
ずっと身体のぶつけ合いに注力してきた朝長は、徐々に劣勢になった背景に自軍の「疲れ」があったと認める。
「前半、帝京大はブレイクダウンに(人数や圧力を)かけてこなくて、(防御網が横長に)開いている印象。ただ、後半、こちらが疲れている時にブレイクダウンへかけてこられた。疲れた時に痛いプレーができていなかったのが悔しいです」
長崎北陽台高出身の3年。今季終盤戦から正NO8に定着した。劣勢局面で相手の持つボールを奪うなど、渋い仕事で味方のピンチを救ってきた。いわばラッキーボーイだった。
来季はLOの古川満主将、CTBの梶村祐介副将ら、下級生時から出番の多かったメンバーが揃って卒業する。間もなくラストイヤーへ突入する朝長は、「4年生の抜けた穴は大きいですが、きょうの敗因を確実に直し、またこの舞台で帝京大と当たりたいです」。集中力、平常心、基礎体力…。1点差負けの深層を見つめ直したい。
(文:向 風見也)