運動量で勝負する宗像サニックスLO加藤一希。(撮影/松本かおり)
2年続けて1月6日に笑った。
パロマ瑞穂ラグビー場は、加藤一希にとって縁起のいい場所だ。
2017年の1月6日は中部大のキャプテンとして全国地区対抗大学大会の頂点に立った。
2018年の同日は宗像サニックスブルースの5番を背負い、近鉄ライナーズに29-8と快勝(トップリーグ総合順位決定トーナメント/13位〜16位 )。自動降格の可能性がなくなった。
この日、後半27分までピッチに立ち続けた加藤は、「できれば最後まで出たかった」と呟いたが、「大先輩、福坪(龍一郎)さんの復帰戦ですから嬉しいですね」と笑った。
「きょうは中部大学の後輩なども含め、多くの人たちが応援に来てくれていたので嬉しかった。気持ち良くプレーできました」
地元・中部大春日丘高校の出身。今季のトヨタ自動車でキャプテンを務める姫野和樹(日本代表)とは同校で同期も、あちらは昔からスター選手で、こちらはリザーブ組。大学時代も、4年続けて日本一に輝いた友とは大きく違う日々を過ごした。
でもいまは、ともにトップリーグで活躍する。同じ舞台に立っている。
「いまでも連絡を取っていますし、今年のあいつのブレイクは本当にいい刺激になりました」
加藤の武器は素直さだ。そうだから、この1年で大きく伸びた。
ルーキーイヤーの今季、レギュラーシーズンの13試合のうち10試合に出場し、そのうち8試合で先発。この日もスターターとしてピッチに立ち、ラインアウトにタックル、そしてブレイクダウンワークと、チームの勝利に貢献した。
「相手をドミネートしたタックルもいくつかできました。チームが勝って本当によかった」 1年前は、現在の自分の姿なんて想像できなかった。
「なんとか(1年目から)リザーブでもいいからメンバー入りできたらいいな。そんな感じで考えていました」
藤井雄一郎監督には「テクニックは期待していないから、と言われています。それで気楽に頑張れています」と笑い、ノビノビ育ててもらっていることに感謝する。指揮官は、ルーキーの「やれと言えばいつまででもやる」真面目さを買って起用している。
周囲に助けられながら成長中と自覚する本人は、プロフェッショナルとして過ごす毎日を少しも無駄にしないつもりで過ごしている。練習や試合を撮影した自分のビデオクリップを繰り返しチェックして、海外の映像も参考にする。ラグビー漬けの日常が「楽しくて仕方がない、充実しています」。
我流でやってきた学生時代。でも現在は、監督をはじめ一流コーチ陣に囲まれて、刺激と正しい理論、最新の情報を得る毎日。そのお陰で伸びた。
「例えば、僕は以前からタックルに行くときに頭が下がる悪いクセがあったんです。それを(カーロス)スペンサーコーチにつきっきりで直してもらい、ちゃんとやれるようになった(各試合のタックル成功率は80パーセント〜90パーセント台)。相手との距離を詰めた後に抜かれることも少なくなかったのですが、その点も、アドバイスを受けてだいぶ良くなりました。そういった改善があって、試合に出られるようになったと思います」
これだけ試合に出続けても、定位置を確保した感覚はない。常に明るく、挑む心を忘れない。
自分のことを「取り柄がない」と言う男は、ブルースに入ったことで人生が変わったと思っている。
叩き上げのチーム気質。そうでありながらコーチ陣は一流で、同じポジションには世界的プレーヤー(元イングランド代表LOジェフ・パーリングなど)がいる。つまり、誰にでもチャンスがあり、うまくなりたい者にとっては最高の環境。すべてが自分に合っていた。
「宗像という土地も、僕にとっては最高です。ラグビーに専念できます。僕には、愚直なプレーしかできません。大野さん(均/東芝)のような選手になるのが目標」
185センチ、100キロと、トップレベルのLOとしては決して大きくはない。
でも、ハートはでかい。そして純情だ。
スタンドから多くの声援が飛んだ。(撮影/松本かおり)