ラグビーリパブリック

会心の“オールアウト”。準備も奏功して王者降した東海大仰星。

2018.01.06
東海大仰星は前半13分、インターセプトからSO三村真優がトライを奪った。
(撮影/松村真行)
 試合前日のミーティングは、日付の変わる頃まで続いた。
 小雨の降る大阪・東大阪市花園ラグビー場で1月5日、第97回全国高校ラグビー大会の準決勝がおこなわれ、東海大仰星(大阪第2)が21−14で東福岡(福岡)に競り勝ち、前回決勝のリベンジを果たした。
 試合前日の夜だった。
 
 東海大仰星は選手たちによる恒例のチームミーティングをおこなった。夕食後も続いた雪辱戦へ向けたミーティングは、気付けば夜更けに差しかかっていた。
 指揮官の湯浅大智監督は、以前に比べてミーティング内容が「ビックリするくらい細かくなった」という。
「昨日(1月4日)も12時くらいまでたっぷりやっていました。場面場面で何をチョイスするのかを意志統一することができ、それを感じる力もついてきたと思います」(東海大仰星・湯浅監督)
 
 転機があった。
 花園期間中に帯同しているチームOBで、関西学院大のCTB香川凜人から、ミーティングの内容について指摘を受けた。
「『全然喋れてないから、このままだと中途半端な試合になる』と」(東海大仰星・SO三村真優)
 ミーティングへの取り組み方が、チームOBの考えるスタンダードに達していなかった。
 キャプテンのCTB長田智希(3年)は気づきを得たという。
「(3回戦の)秋田工業戦の前くらいに(チームOB・CTB香川から)伝えてもらって、ミーティングの内容などがまだ足りない、ということに気づくことができました。それから濃いミーティングができるようになりました」
 以後は下級生も積極的に発言するように。ミーティング時間が増加し、仰星を支える“考える力”がさらに向上した。
 この日東海大仰星が挙げた3トライは、まさにオフ・フィールドで積み重ねた時間の成果だった。
 前半13分、敵陣22m付近のペナルティでマイボールスクラムを選択した東福岡。一次攻撃で内返しのバスを東海大仰星のSO三村(3年)にインターセプトされ、そのままインゴールを奪われた。
 約70メートルを走り切ったSO三村にとっては、狙い通り、だった。
「ミーティングでああいうサインを分析していました。狙っていたので、上手くハマったと思います」(東海大仰星・SO三村)
 
 2トライ目は前半21分、敵陣左の22mライン手前からラインアウトモールで電車道を作った。
 モール最後尾でグラウンディングしたFL魚谷勇波(3年)は「モールで絶対に一本必要だと試合前から話していた」と明かした。
「東福岡さんはディフェンスが整備されていて、展開ラグビーで取ることは難しいので、『モールがキーだ』と話していました」(東海大仰星・FL魚谷)
 不意を突くようにして一気に取り切り、14点リード(14−0)で前半を折り返した。
 さらに東海大仰星は後半2分、東福岡のラインアウトミスからマイボールスクラムの好機。スクラムからの2次攻撃目で、フラットに仕掛けたFL魚谷が、元スクラムハーフの俊敏性を活かしてゴール下を奪った。
 監督としては5回目の花園となる湯浅監督も「セットプレーからの準備していたプレー」と納得。選手の判断による変更点こそあったものの、おおむね理想通りトライで、リードはついに21点(21−0)に拡大した。
 ここまで雨の影響もあってハンドリングエラーなどのミス、さらにはハイタックルなどのペナルティでたびたび攻撃権を失っていた東福岡。
 キャプテンのNO8福井翔大(3年)いわく、21点を追いかける展開は今季「初めて」。しかし大量点を追いかける状況の想定はしていた。
 後半途中から王者は底力を見せた。
 東福岡は後半11分、ウイングでもプレー可能なNO8福井キャプテンが右大外からスコア。さらに2分後、FL木原音弥(3年)が次々とタックラーを振り切って右中間に独走トライ。
 足の重くなった東海大仰星のディフェンスを流石のポテンシャルでこじ開け、7点差(14−21)に追い上げた。
 しかし最後は東海大仰星が今年のチームスローガンだった「オールアウト」を体現。今秋に集中強化していたカバーディフェンスでも粘ってトライを許さなかった。
 後半27分には猛タックラーのCTB和田悠一郎(3年)が、トライ寸前でタッチライン際に押し出す値千金のディフェンス。
「こちらと相手の人数が合っていたので、思いきって上がりました」(東海大仰星・CTB和田)
 チームの危機を救った。
 最後はターンオーバーに成功した東海大仰星がタッチへ蹴りだし、激闘は21−14で決した。
 2連覇が夢なかばとなった東福岡の藤田雄一郎監督は「花園での仰星さんは違いますね」と好敵手を称えつつ、「ベスト4まで連れてきてもらっていますから、(選手には)感謝しかないです。またこの場に帰ってきて戦いたいですね」と闘志を内に秘めた。
 東海大仰星の湯浅監督にとっては会心のゲームだった。
「ラグビーのいろんな要素の詰まっている試合ができ、本当に幸せでした。出し切れない子たちだったので、今年のスローガンは『オールアウト』にしていました。“すべてを出し切る”――選手たちはとっても成長したと思います」(東海大仰星・湯浅監督)
 1月5日は“考えるチーム”東海大仰星が、オールアウトしなければ辿り着けない高みに達した日だった。
(文/多羅正崇)
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