北海道・旭川工高出身、187センチ、98キロ。1年時から出場を重ね、今季キャプテンの重責を担った
(撮影:松本かおり)
「この試合のテーマとして出していたことを、80分間やり切れなかったのが敗因。ただ、これまでやってきたことは間違っていなかったと思うので、後輩たちにはもっと磨きをかけて、がんばってほしい」
流経大・大西樹(いつき)主将が悔しさをかみしめながら試合を振り返った。12月23日、東京・秩父宮でおこなわれた大学選手権準々決勝第2試合は帝京大68−19流経大に。
8連覇中の帝京へのチャレンジは後半に突き放され、流経大の敗退が決まった。
流経大は序盤に2トライを先行されるも、前半17分にトライを返し、7−14と差を詰める。この時間帯を帝京大・岩出雅之監督は「最悪ですね」と振り返った。対抗戦1位のシード校・帝京は、リーグ戦最終戦から約1か月を空けての公式戦だった。「特にディフェンス面でのゲーム勘が戻っているか」と岩出監督が気にかかっていたポイントは、前週に3回戦を戦っている流経大にとっては突くべきチャンスだっただろう。
「あれが、今シーズン最後の『隙』だったと振り返られるようにしたい」(岩出監督)
「序盤は、流経大さんの気迫に、受けに回った面もある」(帝京大・堀越康介主将)
流経大も、連覇中の王者との序盤戦を、手応えを感じながら過ごしていた。
「体を当てた感覚でも問題なかった。いける、いけるよと声をかけていた」(流経大・大西主将)
12−21、14−21、先行されながらも流経大は食い下がる。前半は流経大14−28帝京大。
しかし、後半早々2分にトライを奪われ(ゴール成功)、14−35とされる。そこから後半23分までに19−47と差を広げられ、ほぼ勝負は決まった。
大西主将ら流経大がこの日焦点を絞ったのはディフェンスからのブレイクダウン。
「ファーストタックラーが(相手に)刺さる。そこへ2人目が早く寄るのは今までもやってきたこと。そこへさらに早く寄ることで、プレッシャーをかけられると考えていた」
相手の攻撃をスローダウンさせ、チャンスがあれば奪い返して逆襲する。勢いに乗ったときの決定力には自信があった。しかし、攻撃機会を思うように作れず、相手のアタックを停滞させることも徐々にできなくなっていった。80分やり切ることができなかった――と主将が振り返った局面だ。
ブレイクダウンの攻防は、春のゲームで、ライバルたちとの戦いに可能性を見出し取り組んできた部分だけに悔しさが募る。もっと磨きをかけて――と後輩に託したのもこのポイントだった。
キャプテンを託された当初は、「本来自分は主将タイプじゃない。誰かのキャプテンシーに付け加えるほう」と感じていた。言葉ではなく、プレーで引っ張ると腹を括った1年。ブレイクダウン、タックル、停滞したアタックを打開する杭の役回りなど、体を張って、文字通りチームの先頭に立ってきた。
1年を振り返って、「思っていたのとは違うところもある」とも。
「個性の強いチームをまとめるのは思った以上に難しかった」(大西主将)
ただ、本人には気が付かない強さもある。たとえば帝京チャレンジの1週前、朝日大戦をしっかりと勝ち切ることができた(54−34)のは、主将自らが背中で示し、チームが培ってきた規律、確固たるベースゆえだ。
印象的なのは後半15分過ぎ。35−29と朝日大に迫られ、朝日大のトンガ代表・NO8シオネ・ヴァイラヌ、サモア出身のLOイオスア・ソウソウが相次いで怒涛の突進、ゴールラインを脅かされた場面だ。爆発的な朝日のアタックシーンでかえって凄みを感じさせたのは、このピンチを守り切った流経大FWのディフェンスだった。トライまであと数十センチのところでフロント5が駆け付けタックルで刺さり、相手キャリアごとボールを押し戻した。その後のブレイクダウンにしつこく、したたかに絡みついた。
この危機を守り切ったこと、そして5分後に決めたトライ(ゴール決まって42−29に)で勝利を手繰り寄せた。
大学選手権ベスト8は、流経大にとって過去最高タイの戦績。本人たちに意識はなくても、根付かせたものがチームをここまで連れてきたことは間違いない。
流経大のシーズンは終わった。キャプテンが見せた背中を、後輩たちが追いかけ、追い越す時間が始まっている。
(文:成見宏樹)
「後半は、前半と違って外にボールを振られた。そこに対応できなかった面もある」と大西樹主将
(撮影:松本かおり)