ラグビーリパブリック

FXでも接点でも戦う。早大・佐藤真吾は、早明戦でも自分だけの世界を。

2017.12.02

再びの栄光を目指す早大で指揮官の信頼も厚い佐藤真吾(撮影:向 風見也)

 珍しいラグビー部員だ。早大3年の佐藤真吾は、20歳になってからFXを始めた。
 FXとは自己資金以上の外貨を売買する投資方法。とあるアンケートでも「1億円が手に入ったら投資する」と答えたという佐藤真吾は、スマートフォンなどで値動きをチェックするのをオフの習慣としている。
「なぜかわからないですけど興味があって、20歳になるまでずっとコツコツお金を貯めていて。『なんでお前、そんなことしているの?』って言われます。僕も別に何かが欲しくてやっているわけではないんですけど、何か、達成感があるというか」
 グラウンドでは、「ブレイクダウン(肉弾戦)、タックル」を己の仕事と捉える。身長179センチ、体重96キロと特別に大きな身体ではないが、昨季からFW第3列のFLでレギュラーポジションをつかんでいる。
 今季は春から夏にかけ右ひざなどの怪我で離脱も、秋の関東大学対抗戦Aの青山学院大戦(10月1日/栃木・足利市総合運動公園陸上競技場/〇94−24)で復帰。12月3日の明大戦(東京・秩父宮ラグビー場)でも背番号6で先発する。明大のFWには巨躯が揃うが、佐藤真吾は強気の姿勢だ。
「相手のFWが順目(同一方向への攻撃)で来た時のタックル、接点の際の攻防で意味のある仕事をしたい。いままで自分たちがやってきたことを出すしかない。負ける気はしないです」
 東京・本郷中でラグビーを始め、同高でも競技を続ける。「いつかは忘れましたけど、早明戦を観てかっこいいなと思って」。スポーツ科学部のセンター利用入学試験「競技歴」方式を通過し、早大の門を叩いた。
「受験の時は、最後の方はセンター試験の勉強しかしていなかった。ここからいろいろ勉強しても受からないなと思って、一本に絞りました」
 昨季から始まった山下大悟監督体制下では、要所で顔を出すジョーカーとして存在感をアピール。タッチライン際で球を持てば、相手を「いなす感じ」でスイスイと前進する。
 11月29日、東京・上井草グラウンド。早明戦とも呼ばれる伝統の一戦を前に、早大のFLやLOらは肉弾戦周りの動きに特化した居残り練習を実施。抜擢された10名の選手が肩で息をしていた。もっとも佐藤真吾は、「(この日の練習量は)いつもに比べたら、ぬるい方です」と平然としていた。
 FWには接点へ低く鋭く突き刺さるよう意識させたい山下監督は、「真吾」への信頼とリクエストをこう語る。
「いい意味での『悪さ』を兼ね備えた、判断力のある選手。戦っていますよね。真吾には、真吾にしかできないプレーがある。(チャンスへの)嗅覚がある。ただ、ブレイクダウンでのスキルなどファンダメンタルの部分だけは横着しないようにと言ってきました」
 当の本人が「接点の際で意味のある仕事を」と話すのは、ボスの要望を把握しているからでもあろう。
「大悟さんは、ラグビーの部分を突き詰めている。相手の分析の時も、接点の際の部分の練習でもそう感じます。1年生の時は試合に出られなくて、同級生とかが試合に出ているのを『いいな』『あそこに出たいな』と思って見ていた。いまは試合にも出られて、テレビにも映れて、日常じゃ経験できない高揚感もあって…」
 効率よく収益を得たい気持ちと、理不尽なスポーツに没頭する気持ち。相反していそうなふたつの気持ちを両立させる佐藤真吾は、自分だけの嗅覚と技術を早明戦で披露する。
(文:向 風見也)
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