這い上がってきた。
明大4年の堀米航平が、控え組降格を経て成長した。12月3日には東京・秩父宮ラグビー場で、関東大学対抗戦Aの早大戦に挑む。
早明戦とも呼ばれる今度のクラシコに向け、気を引き締める。
「大きな舞台。4年生としての意地、プライドを持って、いままでと違う自分、4年生としての自分を出していきたい。リーダーシップ、体を張る、キックをしっかり決める…。自分の仕事をしっかりとしたい」
この日の結果によって対抗戦の順位が変わる。現在4勝2敗で8チーム中3位タイの明大は、早大に勝てば2位浮上のチャンスを獲得も、負ければ4位に沈む。2位なら日本一を決める大学選手権でのシード権を獲得。同選手権への参戦開始日は3位以下の場合の16日から23日に変える。最上級生が武者震いするのは、自然な流れだ。
身長178センチ、体重89キロ。千葉・流通経済大付属柏高出身のSOで、ロングキックとフィジカリティを長所とする。明大では1年時から出場機会を獲得し、2、3年と年を重ねるごとに先発機会を増やしてきた。
ラストイヤーは、やや壁にぶつかったか。
就任5年目の丹羽政彦監督のもとへ今季から入閣した田中澄憲ヘッドコーチ(HC)は、卒業後に国内最高峰トップリーグへ挑む堀米の動きを「もったいない」。鋭いキックを蹴った先に味方が走っていないことなどから、「周りと連動をしていない」との印象を受けたようだ。事前の決め事にとらわれる向きも感じた。
3年の松尾将太郎の台頭もあり、堀米を主力にあたるAチームからBチームへ降格させた。田中HCは本人に言った。
「君の場合は、自分だけでプレーしている。これからトップリーグでやるのなら、そういう10番(SO)は難しい。ただ、周りを巻き込むことを意識したら、それは自分に返ってきていいプレーができるようになる」
堀米は、すぐに立ち上がった。
Bチームのための公式戦である関東大学ジュニア選手権では、Aチームの頃以上にリーダーシップが問われた。経験の浅い選手らを司令塔として率いるべく、攻撃の連携や作戦について対話を重ねた。
「去年、一昨年と普通に試合に出ていたので、悔しい気持ちもありました。ただ、Bに行ったことで考える時間が増えた。ここで終わるんじゃなくここを糧にしたら、今度、紫紺(明大のジャージィ)を着る時にはさらに成長した自分になれている…。そう思い浮かべながらやってきました」
10月8日には帝京大との打ち合いを31−40で落としたが(東京・帝京大グラウンド)、先発した4試合を3勝1敗で終える。ここで勝敗を左右する存在になれたことで、責任感を強めたようだ。11月にAチームへ復帰し、こう胸を張る。
「ジュニアでは勝てそうで負ける経験も、いいプレーができて(Aチームに)上がることもできた。ここぞという時に試合を決めるプレーをするのは、精神的な強さから。そのメンタル面も学べましたし、コミュニケーション能力も上がりました」
今度の早明戦で対抗戦の今季初先発を目指す。回り道をした最上級生に、田中HCが期待をかける。
「質問もよくしてくるようになりましたし、BK全体でどうアタックするかということにもジュニアで取り組んでくれた。もともとキック力もあって、身体も強い。頼もしいです」
挫折を味わった経験者がバージョンアップして最前線に戻ってきた。大学選手権に向けてもポジティブな話題だろう。「必死だった」という本人は、改めて決意した。
「前にAにいた時は主将、副将などのリーダーが引っ張っていたけど、ジュニアでは自分が引っ張らなくてはいけなかった。それがいまに活きています。Aに戻ってからは自分もリーダーとして取り組んでいる」
まずは伝統のカードで背番号10をつけるべく、東京・明大八幡山グラウンドでの日々を充実させてゆく。
(文:向 風見也)