関東大学対抗戦A有数の人気カード、早大対慶大の一戦は、今年も11月23日に東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれる。
「魂のタックル」を伝統的な代名詞としてきた慶大では、今季、最もタックルが期待されるFLのポジションで4年の中村京介副将が起用されている。
今度の早慶戦でも背番号6をつけるこの人は、身長173センチ、体重85キロと一線級のFLにあっては小柄だ。それでも相手の足元へ突き刺さる防御、腰の強さをうかがわせる走りで、確かな存在感を示す。
戦前から続く宿敵との一戦を控えた11月15日、チームの準備状況をこう話している。
「早大戦に向けてのフォーカスは、1メートルファイト。ブレイクダウン(肉弾戦)では低さで勝って、相手を1メートル、押し込むことを意識しています」
努力の人だ。愛知県立明和高で競技を始め、自主応募制推薦の制度を使って慶大文学部に合格。主力組には慶応高からの内部進学生、総合政策学部のAO入試を利用した全国大会経験者が多いなか、1年時は6軍にあたる「Fチーム」に配された。その頃はわずか68キロと細身で、当時の方針から「74〜5キロ」を下回った場合は練習に入ることすら許されなかった。
春先に早大、明大のルーキーたちとぶつかる「新人早慶明」でも出番をもらえず、雌伏の時を過ごした。
「僕らの代は人数も多かったので、しょうがないところもあったのですけど…。(チームスケジュールとは別に)個人でもウェイトトレーニングをしてひたすらご飯を食べるという生活をしていました。体重を増やして、練習に出て、めちゃくちゃ走って、体重が減って、練習を外されて…ということを繰り返していました」
翌年度は、現在の金沢篤ヘッドコーチへの指揮権交代もあってジャンプアップに成功する。
この時の「新人早慶明」に2年ながら「1年生の人数が足りない」ために出場し、「やっと、脱出できた」。3、4軍にあたる「Cチーム」「Dチーム」が汗を流す「ジュニア」のトレーニングに常時参加し、「Aチーム」「Bチーム」のいる「シニア」からも声がかかるようになった。
そして今季、秋の対抗戦開幕からレギュラーを死守する。
「A、Bチームの試合では、C、Dチームとは相手のコンタクトのレベルが違います。初めて出たばかりの頃は、車に当たられるぐらいの衝撃を感じていました」
そうは言っても11月5日には、神奈川・相模原ギオンスタジアムで大学選手権8連覇中の帝京大に28−31と応戦。試合中盤には接点に身体をぶつけ、相手ランナーからボールをもぎ取った。
下積みが長かったためか「(いまの好調が)いつまで続くんだろう」と謙遜しきりだが、与えられた責任を果たしたいとも意気込む。
「試合に出たくても出られない人たちが何人もいるなか、15人のメンバーに選んでいただいている。下手なプレーはできないという思いはある。シニアのチームでは勝ち負けも重要ななか、しっかりしたプレーをしないと落とされる。裏(Aチームの練習相手となるBチーム)の選手やジュニアの選手たちに『なんでこいつが出ているんだ』と思われないように、頑張らないとな、と」
芝の外では「いまでもそんなにタックルは好きじゃないです。怖くて…」と苦笑するが、いざ試合になれば「そんなことは言っていられない」。闘争心のスイッチを入れ、迫りくる赤と黒のジャージィを「1メートル」でも「2メートル」でも押し戻したい。
(文:向 風見也)