市立尼崎高が誇る「走る女子マネ」、前出衣澄、西岡彩花、
町田佳蓮、泉凪咲さん(左から)。後ろに並ぶのはラグビー部部員たち
タレント・森脇健児さんの人気テレビ番組だった「走る男」ではありません。「走る女子マネ」です。
4人のかわいらしい高校生マネジャーは、仕事の間中ずっと駆け足です。
それが伝統です。
1年生の前出衣澄(まえで・いずみ)さんは言います。
「急いだ方がいいと思います。歩く理由もないですし…」
ラグビー部監督の吉識(よしき)伸先生(保健・体育)からは笑いが漏れます。
「走らんでええ、って言ってるんですけど」
仕事への姿勢は常に前向き。その甲斐があって、4人がいる尼崎市立尼崎高校は、初めて全国高校大会兵庫県予選の決勝に進みました。聖地・花園をかけ、報徳学園と戦います。
通称「市尼=いちあま」と呼ばれる学校にとっては、1948年(昭和23)の創部以来、70年目の快挙になります。
報徳学園と関西学院以外の顔合わせは9年ぶり。公立校のファイナル出場は実に17年ぶりのことです。
11月18日の準決勝では関西学院に24−7と快勝できました。リーダー格の3年生・西岡彩花(さやか)さんは振り返ります。
「すごくうれしかったです。準々決勝の関学と甲南の試合を見たのですが、接戦だったので(14−12)、もしかしたらウチが勝てるかもしれないと思っていました」
ただ、初めて決勝に出ても、4人の日常は変わりません。
走りながらたくさんの用事をこなします。グラウンドでの水運び、風邪予防のうがい薬の準備、買い出し、お客さんへの対応、ジャージーの洗濯…。特に大きなウエイトを占めるのは補食のおにぎり作りです。
西岡さんはニコニコ顔で説明します。
「お米は最高で55合炊きました。マネジャー同士で中にどんな具を入れるかとか、違う学年の話をしたり聞いたりするのがとっても楽しいんです」
6升近くも炊飯するだけで大変です。
具には高菜、鮭、ソーセージ、スパムなどを入れます。一番人気は「海苔マヨ」です。味付け海苔に醤油とマヨネーズで混ぜ込んだものです。吉識先生は、海苔の香ばしさのきいた味付けのよさにびっくり。
「これ、コンビニで出しても売れるで」
ラグビー部部長の山本恵美先生(国語)は同性ながら手際のよさに感心します。
「みんなすごいスピードで握ります。私より数倍早いです」
山本先生は結婚しており、ご主人は兵庫工監督の山本正樹先生(保健・体育)です。
おにぎりの最高数は約200個。試合に来てくれたチームには1人に1個ずつ、お礼の意味を込めてふるまいます。
2年生の町田佳蓮さんには、補食作りによろこびがあります。
「あの先輩大きくなったなあ、とか、あの子はもっと太らないとあかんよなあ、とかマネジャー同士の話で盛り上がっています」
1年生の泉凪咲(いずみ・なぎさ)さんは夏休みの家庭科の宿題をおにぎりにしました。
「カロリー計算や栄養バランスを考えました。筋肉を増量するためにはたんぱく質がいる、じゃあツナを使おう、みたいな感じです」
マネジャーもラグビー中心ですね。
最後の高校生活を送っている西岡さんは、中学の時は陸上部でした。やりがいを求めてラグビー部に入りました。
「最初は親からダメ出しをされました。でも、どうしてもやりたかったので、入部してから言いました」
事後報告にするほど気合が入っていました。卒業後は観光関係の専門学校に進む予定です。目標は空港のカウンターで働くこと。母性が豊かで人のお世話が好きなのですね。
ラグビー部主将の岩崎優人君は話します。
「マネジャーがおにぎり作りなど、下から僕たちのことを支えてくれたから、ここまで来られたと思っています」
165センチと小柄ながら、スピードと切れ味鋭いステップが持ち味のFBは、4人に対して感謝の気持ちでいっぱいです。
最下級生の泉さんは濃紺のジャージーの躍動を祈ります。
「私は中学の時から、目上の人に『頑張って下さい』と言わないようにしています。だって、もうすでに頑張っているじゃあないですか。だから、みなさんが望むような結果になってほしいと願うだけです。私たちも含めて、これからの人生の糧になるような試合になってくれればいいと思っています」
初の決勝戦は、11月23日(祝・木)、神戸市須磨区にあるユニバー記念競技場で、午後1時キックオフです。対戦相手の報徳学園は48歳の吉識先生にとって母校でもあります(大学は大阪体育)。「恩返し」もできればいいですね。
(文:鎮 勝也)