人呼んで「ラグビーの聖地」はさながら田んぼだった。選手が走る時のびちゃ、びちゃという音が、メインスタンド上段まで響く。
10月29日、大雨にさらされた東京・秩父宮ラグビー場。芝から浮き出た泥にまみれたのは、中大のフィフティーンである。加盟する関東大学リーグ戦1部の第5戦目に挑み、前年度王者の東海大に0−54で屈した。
1年生SOの侭田洋翔が強烈なキックを放った前半こそ0−14と粘るも、後半は東海大の微修正に後手を踏むようになったか。中大は侭田が強いキックを蹴っても、最終的には東海大のエリアでプレーが途切れることが増えた。
中大の4年生FL、佐野瑛亮は、ていねいに言葉を選んで悔しさを表現する。
「前半はキックを使って敵陣にいて、自分たちであえてディフェンスの時間を増やし、攻撃のチャンスを生み出すというプランでした。そこで相手がリズムを崩してくれたのですけど、後半は対策され、(前半になかった)外に回すようなアタックをされ、自分たちのディフェンスが後手に回った感じです」
さらにプレーの起点となるスクラムで、終始、押し込まれた。後半11分には、敵陣深い位置での自軍ボールの1本をターンオーバーされた。最前列の左PRに入った有藤孔次朗は、力勝負、駆け引きといった相手のよさを認めた。
「最初のヒットの時点で僕らがいい姿勢を取ることができず、向こうのやりたいようにやられました。東海大さんの低さとスピードでセンターライン(互いが組み合う接点)を取られ、僕らはやりたいことができず…」
ここから東海大は蹴り合いに持ち込み、カウンターアタックを交えて敵陣深い位置へ侵入。後半14分、NO8のテビタ・タタフがインゴールを割った。
ここでスコアは0−26。東海大は結局、開幕5連勝を決める。かたや前年度4位の中大は、今季の戦績を3勝2敗とした。スクラムなどの力勝負の結果を振り返って、佐野はこうも続ける。
「完全に、FW勝負で負けました」
春先には、最上級生の選手がはしかにかかって活動中止を余儀なくされた。感染拡大を防ぎたい保健所の指導による決定だが、チーム作りのペースに支障をきたしたか。
それでも佐野は、「落ち込まず、4年生中心に前を向いて行こうという話をしていった」と強調する。
「スタートが遅れた分、グラウンド外での時間を大事にしました。ミーティングで話す機会を増やし、意思の疎通、思想、ゲームプランの確認をし合って…。中大はディフェンスから試合を作るのが伝統。ひたすら前に出てアグレッシブにやっていこうと話しています」
事実、この日もストラクチャー(セットプレーを起点とした攻防)時の組織に崩壊の匂いは薄かった。東海大のスコアは、モールやアンストラクチャー(非ストラクチャー)からの速攻が主だった。
佐野は、時間を追うごとに存在感の増す同期を頼もしく思っている。
「春先は4年生の怪我人が多く、練習もどうしたって下級生が中心になって、ひとつの方向にまとまることが難しくなっていました。でも、そこで4年生たちが声かけ、プレーで引っ張っていこうと話し合って、それが体現できるようになって、いま、シーズンを迎えているのかなと思います」
外部での経験を肥やしにしようとするのは、2年の有藤だ。
8月29日〜9月10日までは、20歳以下(U20)日本代表としてウルグアイでのワールドラグビーU20トロフィーに出場。U20ポルトガル代表との決勝戦は、今回の東海大戦のように豪雨に見舞われた。途中切り上げの結果、14−3で勝った。
「大きい相手にひるまないようになったかな、とは思いました。少し自信が持てました」
何より、他大学の同学年の選手に感銘を受けた。主将を担った東海大SOの眞野泰地、隣同士でスクラムを組んだ明大HOの武井日向のリーダーシップを、自分のものにしたいという。ややくぐもった声に決意を覗かせる。
「(眞野や武井の)言葉の重みには感動しました。場面、場面の的確な指示と、僕らを鼓舞する、熱いけれど冷静な言葉がありました。U20にはワークレートが高く、しんどい時に前向きになる選手が多かった。中大に帰ってからは、自分がチームのなかでそういう存在になろうと思いました。それを意識して、練習から必死に声を出しています。うまく、いかないですが…」
中大は11月18日、東京・江戸川陸上競技場で4勝1敗の流経大(昨季2位)と激突。25日の最終戦では、ここまで全勝で首位タイの大東大(同3位)とぶつかる。大学選手権進出枠の上位4位以内にはいるためには、ひとつも星を落とせない。
(文:向 風見也)