アフリカーンスが第一言語。好きな言葉は凄い、ステキという意味の「Lakka/Lekker ラッカ」
(撮影:松本かおり)
世界選抜メンバーとして来日したリオ五輪銅メダリストのクワッガ・スミスは、ヴィンピー・ファンデルヴァルトのことをあまり知らないようだった。自身はセブンズでキャリアを重ね、会見の質問で名前が出たその男は若い頃に海を渡っていたから、対戦する機会も少なかったのだろう。同じ南アフリカ人が日本代表になった。すばらしい、健闘を祈る。そう言って祝福したスミスだが、南アで特別に目立つ存在ではなかったヴィンピーについて、あまり多くを語ることはできなかった。
ヴィンピー・ファンデルヴァルトは1989年、南アフリカはノースウエスト州のブリッツという町に生まれた。650を数える日本代表歴代キャップ保持者のうち、南アフリカ出身者は、ジンバブエ人の父と日本人の母の間にプレトリアで生まれた松島幸太朗がいるが、オランダ系白人のアフリカーナーではヴィンピーが初めて桜のジャージーに袖を通す。
「初めての日本代表キャンプを楽しんでいます。みんなよくしてくれる。宗像合宿ではリュウジ(野口竜司)がルームメイトで、まだ大学に通っている彼は英語も上手で、いろいろと助けてくれます。私はまだみんなの名前を憶えている段階なので、これからもっとコミュニケーションをとっていければと思っています」
シャイで、南アにいた頃からあまりしゃべる方ではない。でも、日本代表のチームメイトの多くは彼のことを「ヴィンちゃん」と呼び、仲良くしてくれることが嬉しい。
7歳からラグビーを始めた。タックルが得意なのは、13歳までやっていたレスリングの経験も活きているのかもしれない。南アフリカに生まれた子どもだもの、もちろん、スプリングボックスになりたかった。高校南ア代表に選ばれ、才能のある若い選手を発掘する大会でも活躍し、今年のカリーカップ(南ア国内最高峰大会)で断トツ最多34回目の優勝を果たした名門のウェスタン・プロヴィンスに入団した。
夢へ向かって、順調にエリートコースを進めればよかった。
しかし、22歳のときにスーパーラグビーチームのストーマーズに昇格したが、ウォームアップゲームで2試合出場しただけ。翌年、イタリアに渡って1部リーグに属するサングレゴリオ・カターニアでプレーするも降格が決まったチームに長くいることはなく、帰国。その後、スーパーラグビー参入が決まって誕生したばかりのサザン・キングズに加わり、のちに古豪ブルズでもプレーしたが、輝くことはできなかった。
が、2013年にNTTドコモレッドハリケーンズに入団し、日本でプレーしているうちに新しい目標を見つける。いつか日本代表に入りたい――。
とにかく一所懸命やった。ハングリーに、激しく、泥臭く、献身的に精いっぱい。そして今秋、サプライズコールをもらう。
「日本に住んで5年目ですが、日本代表入りというすばらしい機会を与えてもらって本当に幸せです。家族も喜んでくれて、私のことを誇りに思ってくれています。ドコモの仲間も祝福してくれました」
10月28日、福岡・レベルファイブスタジアム。世界選抜と対戦するJAPAN XV(日本代表)の5番をつけて先発出場した。
キックオフで自分のところへボールが飛んできた。ジャンプ。自分より18センチも背が高いRG・スナイマンにプレッシャーをかけられる。ボールは確保できなかったが、なんとか手ではじいて仲間のリーチ マイケルへつないだ。最初のマイボールラインアウトは敵陣深くでチャンスだったが、スローイングが乱れて好機を逃す。その後、ルーズボールに対して果敢なセービングを見せ、力強いボールキャリーもあったが、ジャパンが2本目のPGで得点し相手との点差を8点に詰めた直後のリスタート、リフターとの呼吸が合わなかったか、またもキックオフボールをキャッチできずに観客席からため息がこぼれた。
世界選抜戦前、親友のルアーン・スミスにタックルするのが楽しみだと言っていた。高校南ア代表や、ウェスタン・プロヴィンスのU19、U21レベルで一緒に汗を流してきた仲間。ヴィンピーがイタリアへ向かった年、ルアーン・スミスはオーストラリアへ渡り、フォースとブランビーズでプレーしていたが、2015年にトヨタ自動車ヴェルブリッツに加入したため、2人は日本で再会する。親友は世界選抜の3番を着ていたから、序盤のファーストスクラム時、視線を向けてニヤリと笑ったが、そのあとはそんな余裕もなくなった。
後半10分にベンチへ退き、結局、ジャパンは27−47で敗れた。初めて桜のジャージーを着てプレーし、楽しかったが、悔しさが残る。
「キックオフでは、身長がかなりデカい相手からのプレッシャーがすごかった。何度かいいタックルをして、ボールキャリーなど良かったところはあったんですが……。ブレイクダウンはチームとして、また私にとっても課題となりました。マイボールのときクリーンアウトができずにスローダウンされてしまった。相手にトライを量産されたのは、ラックで人数をかけすぎたことも原因のひとつかもしれません」
親友にビッグヒットはできなかった。
「ラックのところでちょっかいを出されて小競り合いがありましたけど(笑)」
日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは今秋のスコッド発表時、「FWフロントファイブは常に選考が難しいところですが、今回はルースFWでプレーできる選手を2人いれました。それが姫野(和樹)とヴィンピーです」と語っていた。2列と3列でプレーできるのは強みだ。ユーティリテイプレーヤーは重宝される。
でも同時に指揮官は、「ポテンシャルの高い選手だと思ったので新しく6人を招集しましたが、世界レベルでどれだけ戦えるかは未知。国際試合での強度やプレッシャーに耐えられるか、そのへんもしっかり見ていきたい」と語っている。
桜のジャージーを着てプレーしたが、今後、テストマッチでキャップを獲得できるかどうかはわからない。
ヴィンピーは言う。
「私はフランカーでプレーするのが好きなんですが、ロックでも頑張りたいと思っています。日本代表でプレーできるならどのポジションでもかまわない」
身長188センチのヴィンピーは、ロックとしては世界基準では小柄だ。だからこそ、再びチャンスをもらえるように、世界選抜戦で得た課題に真剣に取り組む。
「ラインアウトの精度を高めたいです。特に優秀な相手ロックとコンテストするときは、ジャンプやサポートを素早くやらないといけない。そして、タックルとボールキャリーは自分のストロングポイントだと思っているので、そこもアピールしたいです。とにかく、チームのためにベストを尽くすだけです」
11月4日に神奈川・日産スタジアムでおこなわれるオーストラリア代表戦がテストデビューとなったら最高だ。そのあとのトンガ代表戦、フランス代表戦でもプレーしたい。もちろん、2019年の大舞台でも。
「2年後のワールドカップで日本代表としてプレーする自分の姿を、もっと鮮明に想像できるようになりたいです。もしスプリングボックスと再び対戦したら、また今度もジャパンが勝ちます!(笑)」
世界選抜戦で力強く前へボールを運ぶヴィンピー・ファンデルヴァルト(撮影:松本かおり)
合宿中、ヴァル アサエリ愛らとともにファンにサインをする。笑顔はかわいい
(撮影:K.TAKENAKA)