ラグビーリパブリック

2年目の挑戦。クボタヘッドコーチ フラン・ルディケ

2017.10.12
10月7日の近鉄戦で戦況を見守るクボタのフラン・ルディケヘッドコーチ(中央)
「もっと早く出会いたかった」
 伊藤有司は言った。
 入社8年目。クボタのベテランWTBは、ヘッドコーチのフラン・ルディケを慕う。
 10月7日、2017年度のトップリーグ7戦目を近鉄と戦い、28−14と勝利する。
「Very very happy」
 49歳のルディケは半月のように口を開き、幸せな感覚を日本人にもわかりやすい英語で伝える。南アフリカ出身らしく、茶色に日焼けした肌、恰幅(かっぷく)の良い体からは包容感が漂う。
 熱情を感じさせるオレンジ色のクボタを率いて2年目を迎えた。
「選手たちはフィールドの上で起こったことへの解決策を持つようになってきました」
 近鉄戦でも進歩が見て取れる。
 代表並みのランニング能力を持つセミシ・マシレワを伊藤が浴びせ倒す。ライン参加してきた近鉄FBに迷わず外側から詰めた。ターンオーバーから、CTBライオネル・マプーのトライが生まれる。
 後半28分、28−7とダメを押した。
 伊藤は笑う。
「自分の中ではいける間合いでした。いい感じで入れたと思います」
 クボタのラインディフェンスは、基本線は面を崩さず、ボールキャリアーを包み込む。近鉄戦ではマシレワのスペースを消すため、随所で飛び出した。対応力を証明する。
 ルディケは満足そうだった。
「内側をしっかり止めてくれたから、外側が出られた。大きな流れを呼べました」
 この日の白星で通算成績は3勝4敗。勝ち点を13とし、レッドカンファレンスの最下位8位から6位に順位を引き上げた。
 主将の立川理道はルディケを評する。
「学校の先生みたいです。よく見ている」
 伊藤は一例を示す。
「僕は疲れてくると気が抜ける時がたまにある。そこを指摘されました」
 ルディケは伊藤に的確な表現を使う。
「蛇口から水がぽたぽたと落ちている感じ。しっかり締めないといけない」
 立川の言葉通り、ルディケの20代は教員として絵画や土木を、バックロー出身者としてラグビーを教えた。
 教育者時代に観察眼を磨く。見なければ、指導法や改善策は生まれない。元日本代表、現イングランド代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズも同じ前歴である。
 スーパーラグビーでは、キャッツ(2002、2006年)、ブルズ(2008〜2015年)のヘッドコーチとして計10季、歴代最多の149試合を指揮した。
 その時代、クルセーダーズのヘッドコーチだったロビー・ディーンズに恩義を受けた。
「私にチームのすべてを見せ、解説してくれました。滞在中の面倒も見てくれました」
 ニュージーランド・クライストチャーチでの半月ほどの学びは、2009、2010年におけるブルズでの連覇につながって行く。
 ルディケが使った英単語は「EXPOSE」。意味は「さらす、暴露する」。その単語の裏には、秘密をおしまなかった9歳上の現パナソニックヘッドコーチに向けた感謝がある。
 クボタはリーグ戦で2014年度=13位、2015年=12位と低迷した。2016年、ルディケにチーム再建を託し、招へいする。日本には夫人と4人の子どもたちと来た。家族とは今も一緒に千葉県に暮らす。
 コーチングは基本プレーを徹底させる。
 伊藤は話す。
「ダウンボールの練習でも、ボールキャリアーはボールを両手でしっかりと抱えて倒れ、腕を使って前進して、遠くにボールを置く、その一連の動きをしっかりさせます」
 技量を上げる本質を理解して指導する。
 今季は、祖国を同じくするジェイク・ホワイトが率いるトヨタ自動車と試合をした。近鉄戦の前戦は40−50で敗れている。
「ジェイクとはよい友人です。素晴らしいコーチでもあります。彼とは1999年にはライオンズで一緒にキャリアを積みました。ただ、フィールドで戦うのはコーチ同士ではありません。あくまでも選手たちです」
 2007年、南アフリカをワールドカップでヘッドコーチとして優勝させた5歳上を敬い、余計な競争心は表に出さない。
 赴任初年の2016年度は12位だった。今年の目標は現実的に「トップ8」に設定する。
「ここ3、4年、才能あふれる若い選手たちが入ってきてくれています。これはリクルートの成功です。そして、チーム内のリーダーたちも成長してくれている。まだ、結果には反映されていないけれど、クボタにとっていいシステム、環境ができつつあります。でもそれは、私だけで創り上げるものではない。選手、GM、コーチなどスタッフはもちろん、OBも含めてこのチームに関わった、すべての人々で創り上げていくものなのです」
 大阪が創業の地のクボタは、東京と大阪の2本社制を採用している。この近鉄戦もバス4台を含め約400人の会社関係者が、奈良・天理親里ラグビー場に駆け付けた。
 地元の天理大出身者が、51選手中、最多の7人を占めていることもあり、手拍子を交えた応援には熱がこもる。
「関西で、しかもウチのホームゲームなのに、アウエーの雰囲気でした」
 近鉄のゲームキャプテンだったWTB森田尚希は振り返った。
「もっと早く出会いたかった」
 それはルディケの有能さをも証明する。
 邂逅(かいこう)に遅いも早いもない。縁は結べた。それは僥倖である。
 契約期間は3年。
 伊藤やチームにとって、至福の時が彼方に見え隠れしている。
(文:鎮 勝也)
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