テンポのいい球さばきが持ち味の?端拳士。(撮影/松本かおり)
後半34分に交代でベンチに下がるとき、スタンドに陣取った大東大の部員席から声が飛んだ。
「戻って来いよ〜」
日大の背番号9は、ぺこりと頭を下げて小走りで自軍側に向かった。
日大の1年、?端拳士(はまばた・けんし)は昨年は大東大の1年生だった。石見智翠館高校から入学も考えが合わないところがあり、夏が過ぎて退部した。
そのまま大学に通い、東京・練馬のジムで総合格闘技に取り組んでいたが、日大関係者からの誘いを受けて楕円球の世界に戻った。単位を移すことができず、あらためて入学し直すことになったが、「またラグビーをやれるようになった。感謝です」と表情をほころばせた。
大東大と対戦したのは10月9日だった。上柚木陸上競技場での対戦は10-69。モスグリーンのジャージーを着た留学生たちに走り回られ、日大は完敗した。
しかし、日大もはやいテンポの攻撃を繰り返し、目指しているスタイルは見られた。奪ったトライは1つだけに終わったものの、?端の球さばきはチームのリズムを作る発信源になっていた。
日大はこの日で開幕3連敗となった。しかし、戦いはまだ始まったばかりだ。
小学2年生のときに和歌山ラグビースクールでラグビーを始めた。すぐに大好きになった。だから中学入学時にはラグビー部があるところを求め、大阪の岬中に進学した。
同中学校、石見智翠館高校、大東大のコースは、サンウルブズでプレーし、日本代表の経験もある茂野海人(現トヨタ自動車)と同じ。「中学の練習に行ったときにバッタリ会い、その後、SNSとかでやり取りもしました」と話す。
ただ、憧れの人とタイプは少し違う。
「茂野さんはタックルもガッツも凄い。でも自分はテンポを上げたり、エリアをとりにいったりするタイプです」
高校時代は3年時に花園で準決勝に進出した。
「智翠館でキャラが変わりました。もともと自分からいくタイプじゃなかったのですが、そんなだと埋もれてしまうチームだったので、声も出るようになった」
高校2年時に半年間、ニュージーランドのバーンサイド高に留学した経験は一生の宝だ。オールブラックスのアーロン・スミスのようになりたい。試合前には彼の好プレーを集めた映像を見て気分を高めている。
昨年、大東大のラグビー部を辞めて感じたことがあった。
「自分にとって、ラグビーは本当に大切なものだった。それに気づきました。ラグビーをやっていたからここまでこれた。離れてみてあらためて気づいたし、すごくやりたくなりました」
だからいま、ラグビーが楽しくて仕方がない。周囲に感謝する。プレーに没頭しているから、「大東大が相手だから、という気持ちでなく、純粋に勝ちたいと強く思って試合に臨めました」。
はやく勝利をつかみたい。