真っ向勝負の心意気があった。
10月1日、東京・秩父宮ラグビー場での関東大学対抗戦Aの2戦目。21季ぶり13度目の大学日本一を目指す明大に対し、筑波大は鋭い防御で応戦する。具体的には、相手ランナーのやや外側に立つ選手が接点方向へ鋭角に飛び出した。
明大は、スペースを切り裂くBK陣がキックオフ直後などにミスを連発。相手のWTBである仁熊秀斗に2トライを許し、21−21とタイスコアで前半を終える。球を持っても突進役のFW陣は、例の防御との我慢比べを強いられていたように映った。
もっとも当事者は、やや別な実感を抱いていた。80分トータルで当たり勝ち、走り勝つイメージを信じ切っていたのだろう。
明大のFLである前田剛は、飛び出すタックラーの背後を突くなどのプレーをあえてしなかったと振り返る。
「もし前半のうちから裏の(背後を抜け出す)プレーを使っていたらそのうち対応される。前半はボディブローを打って、後半勝負という話は最初からしていました」
事実、ハーフタイムを経ると、この「ボディブロー」の効力を発揮させる。攻撃システムを整理したことと相まってか、1対1で競り勝つ局面を徐々に増やしてゆく。終わってみれば68−28と大差で勝利し、前田はこう続けたのだった。
「前半は上がってくる選手に真っ向勝負で身体をぶつけて、後半、相手がばててきたところでFWがBKにパスをしたりして、ディフェンスをコントロールした感じです」
特に光ったのは、後半から出場したインパクトプレーヤーだ。新人のWTBである石川貴大は持ち場を問わずスペースへ駆け込み、再三、チャンスメイクする。
加えてFW陣における「ボディブロー」の打ち手として気を吐いたのが、武井日向だった。身長170センチ、体重97キロのHOは、接点の脇からの突進を連発。敷き詰められた筑波大の防御網に、何度も亀裂を入れる。最前列中央で組むスクラムでも、相手の反則を誘うなど概ね組み勝った。
「インパクトを与えてこいと言われていました。日頃の練習中からボールキャリー(突進)などは意識してやっていたので、それを出すだけでした」
両軍陣営をうならせたのは、後半23分のトライシーンだ。
敵陣22メートル線付近中央のスクラムを押すと、球が展開された左タッチライン際へ移動。石川らのラインブレイクでゴールライン手前までボールが運ばれるのを確認し、折り返しのパスを受け取る。
ここから相手のタックラーと正面衝突しながら、そのままインゴールまで足をかき続けた。ゴールキック成功を受けて54−21としたこの場面を、同じく後半から登場の箸本龍雅にこう驚かれた。
「僕は(武井のランの)次のプレーを考えていたんですけど、1人で持って行ってくれて。すげぇ…と思って見ていました」
國學院栃木高から入学の昨季、レギュラーに定着。8月29日〜9月10日までは、20歳以下(U20)日本代表としてウルグアイでのワールドラグビーU20トロフィーに出場していた。国際舞台での戦いを「大きい相手に対してやれるという自信を持てて、課題も見つけられた」と振り返り、帰国後の部内でのアピールぶりをこう明かす。
「帰って来てから、チームですべきことが何かを徹底的に落とし込んでいます」
終わってみれば会心の勝利も、4年の前田は「前半はロースコアになると思っていましたが、あそこまで苦しむとも思っていなかった。(失点につながった)コミュニケーションミスは減らさなきゃいけない」と反省も忘れない。帝京大の大学選手権9連覇を止める有力候補のひとつとして、さらに加速したい。
(文:向 風見也)